地方自治体では移住を検討する方に向けた体験サービス「お試し移住」を開催している場所が増えています。これを利用すれば旅行とは違う“住む”ための実用的な情報を得ることができます。
今回はそんな移住体験ができるおすすめの自治体をまとめたので、ぜひ参考にしてみてください
お試し移住とは?自分に合ったプランを選ぼう
お試し移住とは、移住を実践する前に目当ての地域に存在する住居や宿泊施設を利用して数日間実際に暮らしてみる、という体験型のプログラムです。
観光目的の旅行とは異なり、住むことを前提としたライフラインの情報や地域交流状況をサポーターの方から教えてもらったり、実際に移住した方にお話を聞けたりする機会もあります。
「移住体験」と言っても、自治体が主催するパッケージツアー型から、自身の好きなようにスケジュールを組み立てられるオーダーメイド型まで、その種類は様々。移住体験者に向けた住宅の貸し出しや、ゲストハウスを利用した長期宿泊を実施している自治体もあります。まずは、それぞれの特色を知って、自分に合ったプランを選びましょう。
①パッケージ型体験ツアー
「パッケージ型体験ツアー」は、予め決められたスケジュールや体験内容に沿って、他の参加者と一緒に移住体験ができるツアーのこと。
ツアースケジュールは主催する自治体により様々ですが、生活環境にかかわる施設(空き家、学校、スーパー、病院など)の視察、先輩移住者や地域住民との交流会、移住制度の説明会などが組み込まれています。
移住を考え始めたばかりの人でも、比較的参加しやすい移住体験ツアーといえるでしょう。
②オーダーメイド型体験ツアー
「オーダーメイド体験ツアー」は、自身の希望に合わせてツアースケジュールを組み立てることができる移住体験ツアーのこと。
スケジュールを組み立てていく際には担当者が相談にのってくれますが、ツアー内容は基本的に自分次第。住民の雰囲気を知りたいということが目的なら、地域住民に会う機会を増やすこともできますし、住居探しに重きを置いているなら物件巡りもできます。就農に興味があるなら、農業体験を組み込んでみても良いかもしれません。
移住後の生活の理想像をある程度はっきりと描けている人に、特におすすめの移住体験ツアーです。
③職業体験ツアー
「職業体験ツアー」は、文字通り移住体験先で職業体験をするツアーのこと。主に、畑仕事の手伝いや、肉牛肥育農家での餌やりなどが体験できます。
実際に体を動かして作業をしたり、その作業を通して現地の人とコミュニケーションが生まれたりするのが、このツアーの最大の特徴。交流会などとはまた違う、より“普段通り”に近い形で、地元の方々との触れ合いが体験できます。
「移住を機に農業(や畜産業)をはじめたい!」と考えている人は、いくつかの地域で職業体験ツアーに参加して、比べてみるのも良いでしょう。
④お試し住宅
「お試し住宅」とは、移住を検討している地域の住宅に実際に住むことができる移住体験施設のこと。期間は数日から1カ月前後が一般的です。
お試し住宅を提供するのは、移住者を受け入れる自治体や企業など。風情漂う古民家から暮らしやすい新築住宅まで、全国には多種多様なお試し住宅が用意されています。また、施設によっては、地元の人たちとの交流会や移住体験ツアーへの参加が可能なところもあります。
移住後のミスマッチのリスクを減らすことができる点が、お試し住宅を利用するメリット。慎重派の人や、いくつかの候補の中で移住先を決めかねている人におすすめです。
人気の北海道・沖縄県も!お試しプチ移住体験ができる地方自治体
ここからは、移住体験ができるおすすめの自治体をご紹介します。
【北海道下川町】“余白”のある「しもかわちょっと暮らし体験」
「しもかわちょっと暮らし体験」は北海道の下川町で行われている移住体験プログラム。
有名な動物園がある旭川市から約100kmの場所に位置する下川町は、国内では珍しい含二酸化炭酸水素塩泉が楽しめる「五味温泉」や、町民の手によって15万個以上の石を積み上げて作られて中国領事館からもお墨付きを頂いた町のシンボル「万里長城」を構える憩いの場「桜ヶ丘公園」を有し、シルキースノーやアスピリンスノーと呼ばれる上質な雪の中で行うスノーアクティビティが人気な町としても親しまれています。
「しもかわちょっと暮らし体験」では、がっちりと詰め込まれたツアースケジュールは組まれていません。その理由は、あえて日程に“余白”を設けることで、体験者自身に移住と向き合う機会を設けるため。スーパーや病院、学校や公園など、住む際に知っておきたい施設を巡ることもできます。
また、“情報を知りたい”“家を探したい”“仕事を探したい”といった体験者の要望に合わせて見学内容を提案してくれるため、自身の“知りたい”気持ちを満たすことができるはず!
体験は2~3泊程度を想定したプログラムですが、こちらも体験者のスケジュールに合わせて日帰りから申し込みが可能。まずはお気軽にご相談を。
【沖縄県石垣市】「オーダーメイド型」石垣島移住体験ツアー
沖縄県石垣市に位置する石垣島は、エメラルドグリーンの海、カラフルなサンゴ礁、真っ赤な夕焼けを一望できる灯台、幻想的な鍾乳洞など、自然の美を体感できることで人気のスポット。
そんな石垣島では、体験者の希望に合わせたオーダーメイド型の移住体験ツアーが行われています。
ツアーの日程から内容まで、すべて体験者が決めてOK!知りたいことや行きたい場所、興味や不安のあるものを相談していくことで、担当者が適したツアープログラムを構築。移住目的で地域を知るための時間をともに考案してくれるので、自身に特化したオリジナルの移住体験が味わえます。
なお、ツアーにおける現地案内は無料ですが、宿泊、食事、移動費用などは自己負担。開催日程は2024年9月から2025年2月まで。期間中、最大5組まで(日程が重なった場合は先着順)の実施となっているので、気になる方はお早めに申し込みを!
【山梨県甲州市】ワイン、果物の名産地でリアルな暮らしを体験できるお試し住宅
山梨県甲州市ではお試し移住者向けに住宅を提供。ブドウとワインの名産地である勝沼、果樹園の多い塩山藤木にお試し住宅が置かれ、3日以上7日以内という期間で、実際の生活を体験することができます。
こちらは住宅提供のみのため、街の案内や地域の交流会への参加などはありません。だからこそ、体験者にとっては普段と同じようなリズムで生活を送ることができるのかを試すのに打ってつけです!
仕事の後にスーパーへ行けるか?病院の帰りにコンビニに立ち寄れるか?電車やバスはどのくらいの間隔で運行しているか?といったことを確かめることができます。
基本的な家具や家電は一通り揃っていますが、寝具やタオルは持ち込む必要があるため要注意。予約状況は「甲州らいふ」公式ページから確認できるので、まずはこちらをチェック!
【長崎県五島市】カバンひとつでコンパクトな島暮らし体験宿
美しい海や満天の星々とともにジオパークも楽しめる五島列島の福江島。五島牛、五島美豚、五島地鶏しまさざなみといったブランド肉から、ミネラルたっぷりの栄養を受けて育った新鮮な野菜・魚まで!
魅力がたっぷり詰まったのどかな福江島の南部に位置する富江町では、ゲストハウス「富江宿」にて島暮らし体験を行っています。
商店街の電気屋さんを2024年4月にリノベーションして建てられた富江宿は、“カバンひとつで移住を体験”というコンセプトを掲げている、どこかレトロで落ち着いた雰囲気のお宿です。1泊から長期の滞在まで都合に合わせて調整できるので、お試し移住だけでなく、家探しや仕事探しの際の拠点として利用することも可能です。
かつて城下町として栄えた富江町には、「さんさん富江キャンプ村」をはじめとした自然と触れ合える場所がたくさんあります。また、倭寇や隠れキリシタンといった歴史的文化遺産、お盆の頃に毎年開催される念仏踊り「オネオンデ」のような指定無形民俗文化財など、独自の風習や歴史も肌で感じることができる地域です。
生活面では、商店街をはじめ、スーパーや銀行、病院や学校など必要なものがきちんと揃った“コンパクトシティ”として人気が高く、近年では移住者によってカフェや宿泊施設が多数オープンするなど、のんびりとした島の空気を味わいにやってくる移住者が増えています。
【和歌山県和歌山市】漁師町の古民家宿で船のエンジン音をBGMに
「日本百名城」のひとつに数えられる和歌山城が見守る街、和歌山県和歌山市。ここではお試し移住施設として、雑賀崎にある「Fisherman’s Table & Stay 新七屋(しんちや)」での宿泊を提供しています。
「Fisherman’s Table & Stay 新七屋」は漁師町の中に佇む一日1組限定の一棟貸しの宿。築60年のレトロな古民家に住みながら海辺の暮らしを体験することができます。オプションで提供される朝食・夕食はオーナー自ら獲ってきた旬の魚介類を贅沢に使用!
イタリアのアマルフィ海岸のように美しい独特の景色も人気で、その歴史は万葉集まで遡るほど。「紀伊の国の 雑賀の浦に 出で見れば 海人の燈火 波の間ゆ見ゆ」と歌われる景勝地として、そのノスタルジックな雰囲気も魅力のひとつです。
雑賀崎は和歌山駅まで車で15分、バスで40分程度。そこから2時間程度で大阪府まで行けるため、都市部への移動も比較的しやすいといえるでしょう。
【香川県さぬき市】海・山の暮らしを異なるタイプの家屋で体験
うどんやお遍路で有名な香川県さぬき市。ここでは市の海側と山側を代表し、津田と多和という二つの地区で移住体験ハウスを提供しています。
さらに、利用者限定の体験プログラムも!「TAGATAME」という無農薬・無化学肥料の野菜の収穫や植え付けを行う1日農家体験や、住民グループ「結願の郷多和の会」とともに産直運営のお手伝い、天体望遠鏡博物館の閲覧などを行うことができます。
瀬戸内海に面した津田のハウスは平屋建ての2DKで、5分歩けば最寄りの海岸にたどり着けます。多和のハウスは、分校をリノベーションしておりレトロで懐かしい雰囲気の残る施設です。どちらも5日間以上90日以内の利用が可能。なお、寝具やタオル類は衛生面の都合上、体験者自身で用意する必要があるのでご注意を。
それぞれのハウスの予約状況はさぬき市の公式サイトから確認できます。
【長野県伊那市】「田舎暮らしモデルハウス」で伊那の暮らしを体験!
移住先として人気の長野県の中でも、近年トップクラスの移住実績を誇る伊那市。2015年に完成した「田舎暮らしモデルハウス」は、移住を検討する多くの人々に伊那市の魅力を伝えるお試し住宅です。
上伊那産の木材をふんだんに使用した住まいは、面積の82パーセントを森林が占める伊那市ならでは。木のぬくもりを感じながら、のんびりとした田舎暮らしを体験できます。冬はマイナス10度以下になることもありますが、あらかじめ部屋に設置されている薪ストーブやペレットストーブが体を芯まで温めてくれます。
また、吹き抜け部分に床を追加したり間仕切りを用いたりすることで、生活スタイルや家族構成に合わせて間取りを変えられるフレキシブルな造りになっているのも「田舎暮らしモデルハウス」の特徴です。
宿泊期間中の保育園・小学校の見学、空き家バンク登録物件の見学、就職についても相談にのってくれます。詳しくは伊那市の移住定住応援サイトをチェックしてください。
無料のお試し移住体験
金銭面が不安な人に朗報!ここからは、無料の移住体験ツアーを開催しているところや、無料のお試し住宅を提供している自治体をご紹介します。
【愛媛県西条市】人気No.1の田舎で完全無料の移住体験ツアー
愛媛県西条市は、「田舎暮らしの本」(宝島社)による「住みたい田舎ベストランキング」若者世代部門にて2020年から2022年にかけて3年連続で第1位を獲得した、今注目の街(ちなみに、2023年は2位でした)。
そんな西条市ならではの、若者層に嬉しい完全オーダーメイド型の1泊2日無料個別移住体験ツアーが開催中!
長期間の滞在が難しい方に向けて1泊2日のライトな日程で参加でき、土日祝でも都合に合わせて対応が可能。仕事や趣味など体験したい事柄についてリクエストをすれば、その内容を満たせるようにスケジュールをカスタマイズしてくれます。もちろんファミリー層の参加も可能なため、子育てについて相談をしてみるのも◎。
驚くべきは宿泊費・交通費・食費がすべて無料!往復交通費も不要なため、お金の心配は一切ありません。
なお、体験ツアーに申し込むためには無料のセミナー(説明会)への参加が必要。まずはこのセミナー参加から試してみては?
【山形県遊佐町】子育て世帯にもおすすめの自治体で「オーダーメイド型」移住体験
庄内平野の北部に位置する遊佐町(ゆざまち)は、鳥海山を境に秋田県に接する県境の町。子育て世代への移住奨励金や、18歳までは医療費が無料等、支援制度が充実しており、「自然豊かな町で子育てをしたい!」と考えている方におすすめしたい移住先です。
遊佐町が「大切なことを考える時間」をコンセプトに掲げて提供している移住体験は、専門のスタッフが相談に乗って丁寧に対応してくれるオーダーメイド型。何度でも利用可能なので、移住後の生活についてじっくりと考えることができます。
無料で宿泊できる「駅前の家」は、その名の通りJR遊佐駅から徒歩2分ほどの立地にあります。もともとは空き家でしたが、無印良品を手がける(株)良品計画の空間設計部による企画デザイン、町内業者による施工、町民たちによるDIYによりお試し住宅として生まれ変わりました。徒歩圏内にスーパーや地元商店もあり、リアルな遊佐町暮らしを体験することができます。
そのほかにも、一世帯あたり最大12万円の交通費補助制度があったり、体験者に遊佐町産のお米1kgをプレゼントしたりと、移住者を迎え入れることに積極的な遊佐町。少しでも興味が湧いたら、ぜひサイトをチェックしてみてください。
【佐賀県嬉野市】江戸末期に建築された居蔵屋づくりの家でお試し住宅
「重要伝統的建造物群保存地区」にも選定された佐賀県嬉野市の塩田津エリア。江戸時代に確立された建築様式でありながら火災・風水害に強い白い漆喰に覆われた大型町家「居蔵家(いぐらや)」が建ち並ぶ町並みからは、独特の趣が感じられます。
お試し住宅「住む塩田津」は、江戸末期に建てられた居蔵屋づくりの家屋での生活を無料(交通費、飲食費、衛生用品、日常消耗品にかかる費用は自己負担)で体験することができる、古民家暮らしに憧れている人にはうってつけの施設。
毎週日曜日には家の前の通りで朝市が開かれ、地元産の新鮮な野菜やこだわりのパンなどを購入することができます。
利用期間は3泊4日以上13泊14日以内となっていますが、実際に「住む塩田津」での暮らしを体験した人のレポートを見ると「1週間ぐらいは滞在してほしい」とのコメントも。地方移住を考えた人なら誰でも一度は想像する古民家暮らしですが、その素晴らしさや不便なところまで深く知るには、ある程度の期間が必要かもしれません。
さらに「住む塩田津」は、お試しサテライトオフィスとしても貸し出されており、ワーケーションの導入を考える会社やその社員の方たちも利用することができます。
移住の第一歩は「体験」から!理想の暮らしを見つけよう
サービスの行き届いたホテルでは、どうしても旅行者感覚が抜けないもの。実際の暮らしを想定した居住スペースで過ごすことで、自分の理想と実際の移住生活のギャップを埋めていくことができます。
憧れの移住生活を叶えるため、お試し移住を検討してみてはいかがでしょうか。