2年前、編集部が立ち寄ったパン屋でスタッフとして働いていたことがきっかけとなって、複住スタイル創刊号に載ることになった沼田悠子さん。彼女の住んでいる石垣島は観光の島であるが、コロナ禍においてもご多分に漏れず、大きな影響を受けていた。そんな悠子さんの生活が一体どうなっているのか、気になって、石垣島へ飛ぶことにした。
沖縄県石垣市/フリーランス・沼田悠子さん
取材・文・写真/ Ikeda Taishi
縁でつながる島の休日
南ぬ島石垣空港の到着口で満面の笑みで出迎えてくれた悠子さん。今年7月に買い替えたという車に乗って、彼女の休日に同行させてもらった。
最初に向かったのは、「はらぺこポケット」。行列が絶え間なく続いており、地元民に愛されるパン屋なのだろう。「ここは安くて、おいしいんです。ランチはここで買いましょう!」
次に訪れたのは、「石垣島てづくり市」。家具や螺鈿細工などを作る友人らが偶然出店していただけでなく、会場を訪れていた友人らとコロナ禍で空いた時間を埋めるように会話を楽しんでいた。
コンビニでコーヒーを買って、悠子さんの癒しスポットという舟蔵公園へ。広い芝生の中に大きな木が数本、その木陰を選んで、一緒にランチをすることに。
目の前には八重山の美しい海、そして遠くには竹富島、海風が気持ち良い。“よんなー”な時間の中で、今の現状を語ってくれた。
コロナ禍で変化した島での生活
「この2年で生計を立てていた3つの仕事うち、2つはコロナ禍で失っちゃいました。
特に石垣島は沖縄本島よりも医療が脆弱で、クラスターも発生したため、家族以外との飲食、島外からの来島自粛が重なり、交流が盛んだった島の生活が一変しました。
今は、紹介してもらった建設業の事務をしながら、週末は糸かけアートのワークショップや趣味の時間にあてています」。
ランチが終わると、おもむろに糸かけアートで使う木板に釘を打ち始めた。「この公園で無心になって打ち込むのが好きなんです。時には、のこぎりで切ったり、やすりをかけ、塗装もします。
島では手軽に材料が手に入らないので、できるだけ安く、島の人たちに体験してもらいたい。あと、悩み事があるとここへ来て、夕日を見て、また明日頑張ろうって。大切な場所です」。
続いて、島北部にあり、移住仲間でもある友人のプライベートビーチへ遊びに行くことに。
「ここは観光客も来ない秘密の場所です。私は八重山の海が好きで移住してきたので、海と戯れるのが何よりもの癒しなんです。今日、水着持ってくるの忘れちゃいました(笑)」。
八重山の海を誰よりも愛していることが十分に伝わってくる。
「今日は午後5時から糸かけアートのワークショップをするんですよ。しかも、島外からの初めての予約なんです。沖縄県の緊急事態宣言が解除されて以降、少しずつワークショップのリクエストをいただいています」
島への想いと自分らしい生き方
2時間で終わった糸かけアート。2名の参加者とすっかり意気投合した悠子さんは、人にあまり教えたくないという居酒屋へ連れていくことに。
こんな出会いも八重山ならではの光景だ。コロナ禍前の交流が島に戻ってきていると感じられた。
悠子さんは今の思いを酒席で吐露してくれた。
「コロナになり、自分自身の学びも多くあった。ここ数年は観光客が多く押し寄せるオーバーツーリズムだった石垣島。今だけ、金だけ、自分だけといった考えは終わりにしたい。
八重山の自然環境を守る観点から見ると、よかったのではと思うこともあります。
いつ、どうなるかわからない時代、将来を心配するより、“今”を“ここ”で楽しむことに重きを置いて、日々生活しています。やっぱり自然に触れあい、生活することは、理にかなっているし、癒されます。
石垣島の植物で酵素作りをしたり、植物の民具作りをオジイ先生に教えてもらったり、晴れた日は大好きな海にも行きたいし、時間が足りない。
自分でも信じられないのは、ここ1年間、毎日続けているヨガ。身体のために始めましたが、気付けば心がリラックスできる欠かせない生活の一部になりました。
また、糸かけアートの独学に限界を感じていた頃、糸かけデザイン研究所と出会い、2020年月に講師資格を取得しました。
島の人たちに糸かけアートを多く見てもらい、知ってもらいたい。落ち着いたら個展をしたいな。
こんな世の中だけど、新しく出会った人、応援してくれる人、気にかけてくれる人、声をかけてくれる人が私にはいます。世の中捨てたもんじゃない!」
悠子さんの話を聞くにつれ、この島はご縁の島だとつくづく感じる。次に会う時も空港で満面の笑みで出迎えてくれるに違いない。
※この記事は雑誌「複住スタイルVol.4」に掲載されたものを再編集したものです。記載されている内容は取材当時のもので現在とは異なる場合があります。