徳島県が推進するデュアルスクールの魅力|大自然を満喫・地域文化に触れる

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徳島県は2010年頃から全国に先駆けてサテライトオフィスの誘致を始めるなど、先進的な移住支援策や地域活性化の取り組みを行ってきた。その徳島県が2016年から実施しているのが子ども版の「お試し移住」ともいえる「デュアルスクール」だ。

左から4人目が、デュアルスクールを実施中の生徒。校外学習で美波町のまちを歩く。後ろに見えるのは、四国八十八ヶ所霊場第23番札所の薬王寺(写真提供:時事通信社)

目次

住民票を移さず徳島県内の学校へ転校が可能なデュアルスクール

子どもの学校のことを考えるとなかなか「地方移住」や「二地域居住」に踏み切れない・・・。
そんな方に、ぜひ利用をお勧めしたいのが、徳島県の実施している「デュアルスクール」だ。

これは、都市部の子どもが「住民票を異動することなく徳島県内の小中学校に転校できる制度」で、活用すれば、現在通っている学校と徳島の学校を自由に行き来できるようになる。「子どもに地方の学校生活を体験させてあげたい」「子どもと一緒に体験移住をしてみたい」という移住希望者にとっては、ありがたい制度だ。

そして何より、都会と地方の両方の生活環境、学習環境に身を置くことで、子どもはたくましく成長していく。「都会の価値観が絶対ではない」ということを早くから知ることで、視野の広い、多様性を受け入れられる人間の基礎がつくられるのだ。

「デュアルスクール」を主導する徳島県教育委員会の仁宇拓夢さんは、「日本の学校教育制度では、2つの学校に籍を置くことは、原則として認められていません。そこでデュアルスクールでは、『区域外就学制度』を活用することによって、都市部に住民票を置いたまま、保護者の短期居住(数週間程度)にあわせて本県の学校に学籍を異動させています」と説明する。

転校にともなう手続きが必要ないのは、働き世代の保護者にとっては間違いなく朗報だ。その一方、学籍は異動しているので、期間中は住所地の学校で「欠席」にならず、出席日数としてちゃんと認められる。

利用できるのは、三大都市圏(首都圏・中京圏・近畿圏)の小学1年生から中学2年生までの児童。原則、2週間以上の滞在が条件で、年に複数回の実施も可能だ。2016年の開始以来、これまで9家族がデュアルスクールを利用しており、うち2家族は5回実施している。

「もっとも多いのは1回2~3週間程度の利用で、〝子どもと一緒にお試し移住をしたかった?という方のほか、里帰り出産のためにデュアルスクールを活用し、3か月ほど滞在したご家族もいました。〝子どもがアクティブに遊ぶようなった”〝価値観が広がった”といった感想をいただいていて、運営側としても手ごたえを感じています」

実施期間中、徳島県の教育委員会が教員免許を持つ「デュアルスクール派遣講師」を割りあててくれることも好評の理由だ。学習や学校生活のサポートだけでなく、体調管理や心の状態をケアし、一日の終わりには学校生活の様子を保護者に報告してくれる。受け入れ態勢がしっかりしているのもデュアルスクールの魅力だ。

徳島の豊かな自然に触れて子どもの笑顔がはじける

登校初日から、滞在先の拠点に友だちを連れてきて一緒に勉強する児童も。子どもはすぐに仲良くなる
美波町の大浜海岸はウミガメの産卵地として知られ、町は2010 年に放送されたNHK 連続テレビ小説『ウェルかめ』の舞台にもなった
授業中にトンボを発見し、「初めて触った!」と
興奮する児童。実際に昆虫や植物に触れられるのも、徳島ならでは
都会ではなかなかできない川遊びや魚釣りも、徳島
なら日常的に楽しめる

サテライトオフィスが集まる美波町が人気

では、デュアルスクールを活用するにはどうすればいいのだろうか?「実施希望日の1か月ほど前までに、徳島県教育委員会、またはデュアルスクール推進事業を担当している株式会社あわえに連絡してください(P.15参照)

申し込み後、徳島県が居住地域の教育委員会に『区域外就学制度』を承認してもらうための手続きと、受け入れ校との調整を行います。承認が下りて転校手続きが済めば、デュアルスクールの開始です。申し込み条件は、とくにありません」

滞在期間中の住居探しは、あわえがサポートしてくれる。あわえは徳島県の南部に位置する美波町に本社を構える企業で、サテライトオフィスの誘致などの地域活性化事業に取り組んでおり、デュアルスクールには制度の立ち上げからかかわっている。

あわえの久米直哉さんは、「各地の移住支援団体とも連携しながら、子どもだけでなく、ご家族全員が地域の生活に溶け込めるようサポートしています」と話す。これまでコーディネートしてきた家族のうち家族は、あわえのお膝元ともいえる美波町の学校でデュアルスクールを実施している。美波町は県内に開設されているサテライトオフィスのうち、20が集まる集積地だ。以前から「サテライトオフィスの勤務に子どもを連れてきたい」という要望が多くあり、デュアルスクールの利用につながっている。

日和佐小学校の全校生徒数は、150 人程度。1クラスは20 人前後で、担任による丁寧な学習指導が行われる。「デュアルスクール派遣講師」のサポートも手厚く、保護者は安心して生徒を学校に預けられる
美波町にある日和佐小学校。これまでデュアルスクールの児童5 人を受け入れている。都会ではめずらしい2 階建ての木造の校舎は、建て替えられてからまだそれほど時間がたっていない。校庭や体育館、プールも広々している

そして、デュアルスクールのいちばんの魅力は、「都市部では体験できない大自然のなかでのアクティビティ」といってもいいだろう。例えば美波町では、ウミガメの産卵地として知られる「大浜海岸」や、巨大な「くじら岩」がある日和佐川などで日常的に水遊びが満喫できる。さらに、少し足を延ばせば、気軽に裏山散策も楽しめる。海と山が近接した自然環境でおもいきり遊び、図鑑でしか見たことのなかった動植物に出会い、感動する。「自然とともにある生活」を、家族で堪能できるのがデュアルスクールのいいところなのだ。

また、地域行事への参加も子どもにとってはいい経験になる。美波町では毎年、10月に「ちょうさ」という太鼓屋台が町内を練り歩く秋祭りが開催される。なかには、この「ちょうさ」の時期に合わせてデュアルスクールを数年にわたって実施した家族もいる。太鼓の練習をしたり、子ども神輿を担いだりと、さまざまな年代の地域住民との交流は、コミュニティ意識が希薄な都会ではなかなかできない貴重な体験だ。

「デュアルスクールを終えて、子どもの人間関係の幅が広がった?という話はよく聞きます。また、地域住民との交流で生まれたご縁を大切にして、実施期間を終えたあとも、長期休暇や週末を利用してたびたび徳島にお遊びに来てくれるご家族も少なくありません。デュアルスクールは関係人口の創出にも一役買っています」と仁宇さんは胸を張る

地域の文化に触れることもデュアルスクールの醍醐味

海と山に囲まれた美波町は、人口約6,600 人で古くから漁業で栄えてきた。日和佐八幡神社の秋祭りも有名。「ちょうさ」といわれる太鼓屋台を担いで大浜海岸を練り歩き、クライマックスでは海に突入する

担当者に聞いたデュアルスクールのここがすごい!

1.山、海、川。大自然のアクティビティで子どもの感性が磨かれる
徳島は、山、海、川がコンパクトにまとまった地域です。都会ではできない自然の遊びを、地元の子どもと一緒に満喫してください。食べ物もおいしいし、「阿波踊り」をはじめとした伝統文化にもぜひ触れてほしいですね。

2.関係人口が生まれ地域の活性化につながる
デュアルスクールが終わったあとも、定期的に地域を訪れてくれるご家族がたくさんいます。こうした関係人口は、地域の活力になります。つながりが長く続いて、将来、徳島に移住してくれるとうれしいですね。

3.全国の優れた政策に贈られる先進政策大賞を受賞!
「デュアルスクール」は、「第10回先進政策創造会議」(2017 年、全国知事会主催)で、約3,600 件の政策の中から選定された29の優秀政策のうち、1点のみに与えられる最高賞「先進政策大賞」に選ばれました。

徳島県教育委員会教育創生課教育調査・
とくしま回帰担当
仁宇拓夢(にう・たくむ)さん
先進政策大賞表彰状

理想はデュアルスクールが全国で実施されること

デュアルスクール開始から6年目を迎え、課題も見えてきた。久米さんは、「やはり、学校間の事務手続きが大変なので、簡略化、効率化が必要だと思います。将来的には、生徒の情報を電子化するなどして、データのやりとりで転校手続きが完了する仕組みを行政が整えてほしい」と希望する。また、あわえの代表取締役・吉田基晴さんは、「まだ実施件数が少ないのですが、今後、デュアルスクールが子どもの成長や学力にどういう効果をもたらすのかという効果測定や研究も行っていきたい。効果がデータ化されれば、全国で実施する自治体が増えると思います」と先を見据える。

実は吉田さんは、デュアルスクールの提唱者であり、東京から美波町へのUターン組でもある。東京でITベンチャーを経営していた2012年、故郷の美波町へサテライトオフィスを立ち上げる。その後、東京と美波町を行き来する生活のなかで、2人の子どもにも「二拠点生活」を体験させたいという気持ちが芽生え、デュアルスクールを思いついた。

「一般的な子育て世帯が体験移住や二拠点生活ができるのは、子どもの学校が長期休みのときだけ。もっと日常的に、都市と地方を行き来できる制度をつくりたいと思いました」
吉田さんがデュアルスクールの構想を徳島県の関係者に話すと、知事の耳にも入り、とんとん拍子で話が進んだ。

「初音湯」内のあわえのオフィススペース。湯船跡を活用したテーブルで、足湯のようなスタイルで仕事ができる
徳島の滞在期間中、日常的に美しい景色を目にすることができる。子どもだけでなく、保護者にとっても一生の思い出になるはずだ

その後、吉田家は2016年に美波町に移住。2人の子どもを転校前の学校にも通わせたいと思い、板橋区教育委員会にデュアルスクールができないか相談したものの、色よい返事をもらうことができなかった。

「現状では、地方在住の子どもが都市部の学校でデュアルスクールを実施するのは難しい。都市部は移住者や関係人口の受け入れにそれほど積極的になる理由がないのでしょう」と吉田さん。そして次のように続ける。

「しかし、地方創生を推進するためにも、国が主導するなどして全国どこの学校でも自由に学べるようにするべきだと思います。各地域の関係人口が増えるきっかけになりますし、教育現場へのいい影響も期待できる。徳島の受け入れ校からは、〝都会から転入生が来ることは、生徒にとって刺激になる。価値観が広がってよかった”という声が届いています。

都会の学校も地方から子どもを受け入れれば、必ず生徒にとっていい刺激になる」
確かに、全国どこの学校でも気軽に転校できるようになれば、子どもの学びの可能性は大きく広がる。多感な時期に多くの人に出会い、各地で得たさまざまな経験は、将来の大きな資産になるはずだ。

「デュアルスクールの思い出は、深く心に刻まれて、第二の故郷ができるはずです。かかわり続けたい場所、いつか帰りたい場所が心のなかにあると、人生は豊かなものになる。全国の自治体からモデルケースにしてもらえるよう、今後も徳島のデュアルスクールを盛り上げるお手伝いをしていきたいと思います」

あわえの本社オフィス。1909 年(明治時代)に建てられた銭湯「初音湯( はつねゆ)」をリノベーションした。地域のコミュニティースペースとしても機能しており、脱衣所だった場所ではイベントや勉強会が開催される

あわえが取り組む「サテライトオフィス誘致支援サービス」とは?

株式会社あわえ
代表取締役吉田基晴さん

あわえは、2013 年から徳島県美波町のサテライトオフィス誘致に携わり、進出企業は20 社を数えます。このノウハウを活かし、現在、全国の自治体を対象に「サテライトオフィス誘致支援サービス」を提供。誘致指針の策定や自治体職員の人材育成、企業へのプロモーション活動などの支援を行い、これまで全国の100自治体以上でサテライトオフィスの誘致に成功しています。なかには、1年で10社以上の誘致に成功した地域もあります。


一定期間、保護者と移住し、移住先の学校に通います

対象となる児童
・生徒・別の居住地から、受け入れ先の市区町村に保護者とともに居住し、 2週間以上受け入れ先の学校に通学可能な小学1年生から中学2年生までの児童・生徒

【問い合わせ】
徳島県教育委員会 教育創生課
TEL 088-621-3183/FAX 088-621-2880
MAIL kyouikusouseika@pref.tokushima.jp

デュアルスクール推進事業 コーディネート・プロモーション担当
株式会社あわえ
TEL 0884-70-5831/FAX 0884-70-5832
MAIL info@awae.co.jp


取材・文/相澤良晃※本記事は「複住スタイルVol.3」に掲載した記事を再編集したものです

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