子育て中の方であれば、「豊かな自然の中で子育てをしたい」「多様な価値観に触れさせたい」と考える人も多いのではないだろうか。そのような希望を叶えてくれるのがデュアルスクールだ。今回は、デュアルスクールの魅力と、デュアルスクールを取り入れている地方都市・自治体の具体的な取り組みについて紹介していく。
デュアルスクールとは?
デュアルスクールとは、地方と都市の2つの学校の行き来を自由にすることで、どちらの良さも体験できる「新しい学校のかたち」のことだ。
日本の学校教育制度では、2つの学校に籍を置くことは認められていない。
しかし、デュアルスクールでは「区域外就学制度」を活用することによって、都市部の学校に住民票を残したまま、地方の学校に学籍を異動することで、2つの学校を自由に行き来できるようになる。
そのため、都市の学校に籍を置きながら
- 子どもに自然豊かな環境の中さまざまな体験をさせてあげたい
- 都会と田舎、両方の良さを体験させたい
- 子どもと一緒に体験移住をしてみたい
という人にとっては、ありがたい制度だ。転校にともなう手続きは不要でありながら、学籍は異動するので、住所地の学校で「欠席」になることもなく、出席日数としてきちんと認められる。
参考元:株式会社あわえ
デュアルスクールのメリット|都市と地方を行き来して学べること
デュアルスクールで都市と地方を行き来することで得られるメリットは、以下の5つだ。
- 都市と地方双方の視点(デュアルな視点)を育める
- 豊かな自然環境の中さまざまな体験ができる
- 新しい環境に飛び込むことでチャレンジ精神が身に付く
- 地元と呼べる場所が増える
- 保護者にとっては子どもと過ごす時間が増え、移住先の教育不安を払拭できる
それぞれ詳しく解説していく。
都市と地方双方の視点(デュアルな視点)を育める
デュアルスクールでは、都会と田舎2つの異なる生活環境・学習環境に身を置くことになるので、都会と田舎双方の視点を育むことが可能だ。
都会にいれば都会の、田舎にいれば田舎でしか体験できないこと、それぞれの価値観や常識があるものだが、子どものうちから都会と田舎、相反する環境に身を置くことで、自然と視野の広さや多様性を受け入れる基礎がつくられる。
豊かな自然環境の中さまざまな体験ができる
都心部で子育てをしていると「もっと自然の中でのびのび遊ばせてやりたい」「田舎でしかできないことを子どものうちに体験してあげたい」と考える保護者も多いのではないだろうか。
デュアルスクールに参加すると、友だちと一緒に川遊びや魚釣りを楽しんだり、昆虫や植物に触れられるなど、都会ではなかなかできない体験を日常的に楽しめる。
四季の移り変わりを感じたり、身近な生き物や植物との関わりを持ちながら生活することで、子どもの情操教育にも役立つだろう。
新しい環境に飛び込むことでチャレンジ精神が身に付く
デュアルスクールでは、これまでとは全く違う環境、初対面のクラスメイトや先生、地域の人たちと関わることになる。
新しい環境に飛び込むのは大人にとっても勇気のいることだが、クラス全員の前で挨拶をする、クラスメイトに話しかける、地元の祭りやイベントに参加するなど、新たな体験を通して、初めてのことにも前向きに取り組める、チャレンジ精神が自然と身に付く。
地元と呼べる場所が増える
短期滞在の旅行などの場合、観光客として楽しむことはできるが、地元の人と深い交流をすることは難しいことが多い。
その点、デュアルスクールであれば、一定期間地方で暮らし学校に通うことになるので、学校生活や祭りなど地域での活動に参加しているうちに、友だちや地域の人とも馴染み、交流を深めることができる。
都心部で生まれ育った人は、田舎があることに憧れを持つ人も少なくないが、地元と呼べる場所が増えることも、デュアルスクールに参加する大きなメリットだと言えるだろう。
保護者にとっては子どもと過ごす時間が増え、移住先の教育不安を払拭できる
デュアルスクールに参加することは、子どもだけでなく大人にとってもメリットがある。
都会での慌ただしい生活から離れることで、子どもと過ごす時間が増え、親子での会話が増えたという参加者も多い。
また、デュアルスクールに参加すると、移住先での教育環境を実際に体験できるので、「子どもが学校や新しい環境に馴染めるだろうか」「教育環境は整っているか」など、移住後の不安を払拭することも可能だ。
デュアルスクールのデメリット|課題や問題点は?
さまざまなメリットのあるデュアルスクールだが、いくつかのデメリットも存在する。
- 新しい環境に馴染めなかったり時間がかかる場合も
- 学習に遅れが出てしまう可能性がある
- 滞在期間が長くなると元の生活に戻るのが大変
事前にどのようなデメリットがあるのか知っておくことで対処できることもあるので、実際にデュアルスクールを利用する前に確認しておこう。
新しい環境に馴染めなかったり時間がかかる場合も
性格や年齢によっても違いはあるが、子どもによっては新しい環境に馴染めなかったり、時間がかかる場合もある。
しかし、子どもは順応性が高いので、最初のうちは遠慮がちであっても、いつのまにか友だちができて自然と学校に馴染むケースも多い。
年齢が低い方が授業の進み具合の差や学校生活の変化も小さいことから、新しい環境に馴染みやすい傾向がある。
なるべく初回は、低学年でトライする方がハードルを下げられるのでおすすめだ。
学習に遅れが出てしまう可能性がある
学校によって授業の進み具合はまちまちなので、元の学校に戻った際に、学習に遅れが出てしまうこともあるだろう。
滞在期間が長くなればなるほど遅れを取り戻すのは難しくなるが、家庭でドリルに取り組んだり、不在にしていた間にできなかった作成物を作るなど、家庭で元の学校生活に戻るために数時間でも時間をかけることで、遅れを取り戻すことはできる。
滞在期間が長くなると元の生活に戻るのが大変
2週間程度の滞在であれば、すぐに元の生活に戻ることができるが、3~4週間と滞在期間が長くなると、学習の進み具合だけでなく、学校内の話題や流行りについていけなくなることも考えられる。
利用する学校によってサポート内容は異なるが、徳島県では、派遣講師が元の学校との連絡調整業務や児童生徒の学習や学校生活の支援をしている。
また、時々クラスメイトや仲の良い保護者などに連絡をとり、近況を教えてもらうのも良いだろう。
デュアルスクール利用の流れ
デュアルスクール利用の具体的な流れは、以下のとおりだ。
- 生活するエリアを決める
- 利用の申請をする
- 地方での生活スタート
- 元の生活に戻る
それぞれのステップについて解説していく。
移住希望先を決定し、デュアルスクールを行っているか各教育委員会に問い合わせる。
現在、デュアルスクールを取り入れている自治体は数が少なく、移住希望先で必ずしもデュアルスクールが行われているわけではないことは理解しておこう。
移住希望先が決定したら、利用の申請をしよう。
ここでは、徳島県の学校へ申請を出す際の申請方法を例に挙げて解説していく。
徳島県の教育委員会に「◯月◯日から◯月◯日まで◯◯で生活したい」と申請すると、徳島県が元の学区の教育委員会に「区域外就学」を承認してもらうための手続きをする。
利用申請が完了したら、転校手続きをした学校に通学する。
元の生活に戻る
大まかな流れは、こんな感じだ。詳しくは、移住希望先の教育委員会に連絡してみよう。
参考元:グローバルエデュ
デュアルスクールを体験した大阪府の家族の事例
以下の記事は、2019年11月に大阪から徳島県の小学校でデュアルスクールを体験した與さんご家族の体験談を紹介している。
與さんご家族のプロフィールは、次のとおり。
與 竜太さん、真紗さん、日向さん、力丸くん
■居住地:大阪市住吉区
■実施時期:2019年11月(日向さん小学3年生、力丸くん小学1年生のとき)
■体験期間:2週間
■体験の動機:移住希望先の美波町で日常生活を体験するため
日向さんと力丸くんは、デュアルスクールに参加して次のように感じたようだ。
日向さん
教科書の違いもあったけど、クラスメイトが教えてくれたり、専任の先生がついてくれたりしたおかげで、授業においていかれずに勉強できました。方言や地域のことも学べて、大阪では体験できないことがたくさんありました!
力丸くん
短い時間だったけど、みんなが優しく接してくれて毎日が楽しかったです。すぐにでもまたデュアルスクールをしたい!
デュアルスクールに参加することになったきっかけや、デュアルスクールを体験した感想などは、記事の中で詳しく書かれている。気になる人は、ぜひチェックしてみよう。
デュアルスクールを取り入れている地方都市・自治体
最後にデュアルスクールを取り入れている地方都市・自治体を3つ紹介する。
- 徳島県
- 秋田県
- 長野県塩尻市
それぞれの取り組みについて見ていこう。
徳島県
出典:地方と都市を結ぶ新しい学校のかたち「デュアルスクール」|徳島県
徳島県はいち早くデュアルスクールをスタートとし、積極的に活動を続けてきた県だ。
これまでの取組が、働き方改革や地方創生の観点から高く評価され、平成29年に東京で開催された「第10回先進政策創造会議(全国知事会主催)」において、最も優れた政策に贈られる「先進政策大賞」を受賞した。
徳島県では、子どもを受け入れる側の学校には非常勤の「デュアルスクール派遣講師」を配置し、児童生徒の学習や学校生活の支援や、都市部の学校との連絡調整業務をするなどきめ細やかなサポートを受けられる。
これまで多くの児童・生徒を受け入れてきた実績があるため、安心して利用できるだろう。
教育委員会 教育創生課 教育調査・とくしま回帰担当
電話番号:088-621-3183
FAX番号:088-621-2880
メールアドレス:kyouikusouseika@pref.tokushima.jp
秋田県
出典:令和4年度「長期留学(オーダーメイド型留学)」のお知らせ|美の国あきたネット
秋田県では、長期留学(オーダーメイド型留学)という名目で、圏外の小・中学生の受け入れをしている。
長期留学(オーダーメイド型留学)は、県外の小・中学生や保護者のニーズに合わせて、探究型授業体験や自然体験活動を提供する取り組みだ。
秋田県教育庁生涯学習課 社会教育・読書推進班
電話番号:018-860-5184
長野県塩尻市
出典:小規模校への区域外就学(国内短期留学)ができます|長野県塩尻市
長野県塩尻市では、小規模校への区域外就学(国内短期留学)として、塩尻市内にある小規模の小・中学校に体験的に通うことが可能だ。
期間は原則1カ月以内、対象校での受け入れは、1年間につき各クラス1名までと定員が決まっている。
塩尻市教育委員会事務局こども教育部教育総務課学校支援係(就学担当)
電話番号:0263-52-0830
メールアドレス:gakkou@city.shiojiri.lg.jp
デュアルスクールを活用して子どもの多様な価値観を育もう
この記事では、デュアルスクールの魅力と、デュアルスクールを取り入れている地方都市・自治体の具体的な取り組みについて紹介した。
デュアルスクールに参加することで、都会とは違う自然豊かな環境のなか、学校に通ったり生活することで、都市と地方双方の視点(デュアルな視点)を育み、田舎でしかできない貴重な体験を子どもたちにさせてあげることができる。
まだまだデュアルスクールを取り入れている自治体は少ないが、「デュアルスクールを利用してみたい!」という人は、一度移住希望先の教育委員会に問い合わせてみると良いだろう。