いま、2つの地域に拠点を持つ「二地域居住」が徐々に広まりつつある。
では、実際にどのような人が実践し、どう活用しているのか。
その現状を、データをもとにひも解いていく。
※本文中のページ番号はすべて雑誌「複住スタイルVol.1」での掲載ページです
二地域居住の現状|子育て世代の実践者が増加中
2つの地域に生活拠点を持つライフスタイルを「二地域居住」という。ここでは、リクルート住まいカンパニーが2018年に行ったアンケート調査の結果から、二地域居住の現状を見ていきたい。
まず、二地域居住を開始する人は近年増加傾向にあり、2018年は年間17万人以上と推計される(図1)。また、「将来したい」「興味がある」など、二地域居住を前向きに考えている「意向者」の割合は全国の20〜60代で14%に達し、人口にすれば約1100万人という計算になる。二地域居住は一般に広く浸透しつつあるようだ。
では、どんな人たちが実践しているのか。属性を見てみると、「年代」は「30代(29・1%)」がもっとも多く、以下「20代(27・9%)」、「40代(16・5%)」と続く(図2)。そして「家族構成」は、「既婚、子どもあり」が4割を超え(図3)、「世帯年収」は「800万円未満」が半数以上を占める(図4)。
ひと昔前までは、二地域居住といえば、「経営者や役員クラスの会社員」「定年を迎えたリタイヤ組」など、一部の〝お金持ち〟だけができる〝特別なライフスタイル〟というイメージが強かった。
例えば、避暑地の別荘や観光地のリゾートマンションで長期休暇を過ごすというものだ。しかし、今回の調査結果からは、そうしたイメージは湧いてこない。いまや「子育て世代のビジネスパーソン」こそが、二地域居住の主役になりつつあるのだ。
【図1】デュアルライフ開始者(推計)の推移
※全国の20~60代男女の人口(平成30年6月時点)7,914.8万人に、各年における全国の20~60代男女の2拠点生活開始者の割合を乗じて推計
出典:「人口推計」(総務省統計局)
デュアルライフ実施者の属性
【図2】年代
【図3】家族構成※1
【図4】世帯年収※2
※1 家族構成について
単身:誰とも同居していない(父母・兄弟姉妹含む)世帯/既婚子なし:「配偶者/パートナー」とのみ同居している世帯/既婚子あり:「配偶者/パートナー」および「子ども(年齢不問)」と同居している世帯/その他同居(兄弟姉妹、祖父母など):単身・既婚子なし・既婚子ありいずれにも該当しない世帯([配偶者/パートナー]+[父母(義理含む)]など)
※2 世帯年収について
単身世帯では、個人年収を世帯年収として扱う
二地域居住者が増加している理由
二地域居住の裾野が広がった背景には、大きく2つの要因が考えられる。ひとつは、やはりITの進歩。P.60で紹介する実践者・高柳寛樹さんのように、「パソコン一台あれば、どこでも仕事ができる」という人は増えている。
リモートワークを導入する企業も増加傾向にあり、昔と比べればフリーランスでなくとも場所や時間に縛られることなく、自由に働きやすい時代になった。もうひとつの要因は、拠点を手に入れる方法が多様化し、コストを抑えられるようになったことだ。
二地域居住にかかる費用についてはP.64で詳しく説明しているが、いまやシェアハウスも珍しいものではなくなったし、最近では、サブスクリプション型(定額制)の住居サービスも登場して、以前よりも気軽に拠点を持てるようになった。そのため、そもそも「住まい」を持たずに、毎日、旅をするように居場所を変えながら働く「アドレスホッピング」(P.66)というライフスタイルも広まり始めている。
このように、二地域居住の前に立ちはだかる「仕事」と「コスト」という2つの問題が解決しやすくなったことで、実施者が増えているのだ。
【図5】デュアルライフ実施の理由(複数回答/トップ10)
順位 | 理由 | (%) |
1 | いわゆる別荘として活用するため | 31.0 |
2 | 趣味を満喫するため | 27.5 |
3 | 自然を感じられる環境で過ごすため | 27.4 |
4 | 自身や家族の健康に良い環境を求めて | 20.1 |
5 | (第二の)ふるさとを持つため | 17.5 |
6 | 完全移住する前のおためし移住として | 14.6 |
7 | 自然が多い環境で多様な体験をさせ、のびのびと子育てするため | 13.9 |
8 | その地域の住民との交流を持つため | 13.8 |
9 | 都会の刺激を受けられる環境で過ごすため | 12.5 |
10 | 就労の場として利用するため | 12.5 |
約半数が2拠点目を運用
では、実施者は2拠点目をどのように活用しているのか。「実施の理由」は、やはり「別荘として活用するため」(31%)が1位だが、「ふるさとを持つため」(17・5%)、「完全移住する前のおためし移住として」(14・6%)、「その地域の住民との交流を持つため」(13・8%)と回答した人が一定数いることに注目したい(図5)。田舎との接点を持つために新たな拠点を持つ人が多数いるということだ。
また、2拠点目の「年間の平均滞在日数」は「90日」。4日のうち1日を2拠点目で過ごしている計算になる。
「2拠点目への片道移動時間」は、「1時間以上~2時間未満」がボリュームゾーンで、全体の4割を占める。やはり普段生活している家から、適度な距離の場所を選ぶ傾向があるようだ。
そして実施者の約半数が、2拠点目について不在時は「運用している」と回答。単に友人などに貸し出すだけでなく、「賃貸物件・レンタルスペースとして貸し出している」(34・2%)、「宿泊施設として運営している」(20・7%)という人も多い(図6)。うまく運用して利益をあげることができれば、維持費や交通費の負担軽減につながる。
【図6】本人不在時の、2拠点目の運用状況
※運用している:下記いずれかの回答者
「共同で使用している」「友人等に貸し出している」「地域住民等に貸し出している」「賃貸物件・レンタルスペースとして貸し出している」「宿泊施設として運営している」「左記以外で運用している」
出典:株式会社リクルート住まいカンパニー「デュアルライフ(2拠点生活)に関する意識・実態調査」(SUUMO調べ)
※調査地域:1都3県(東京・千葉・埼玉・神奈川)、2府1県(京都・大阪・兵庫)
二地域居住で暮らしをより豊かに
都市部と地方の二地域居住は、確かにそれなりのコストがかかる。しかし、「都会と田舎のいいとこどり」ができるうえ、生活にメリハリもつく。実施者の約8割が「生活満足度が上がった」と回答しているように、暮らしを豊かにする力を間違いなく秘めているのだ。