やりたい!と思ったら、まず実行に移しましょう。考えるのは後からでもできますよ

大学の教員、IT会社の経営者、作曲家など、多くの肩書きを持ち、超多忙な生活を送る高柳寛樹さん。3年前から長野県白馬村にも拠点を構え、東京と往復する日々を送っています。年の半分は白馬で過ごすという高柳さんに、移住の経緯や、仕事に対する考え方について伺いました。

取材・文/山﨑隆一 写真/中村ユタカ


白馬村
人口8,600 ~ 9,500 人※ 面積189.36km2
年平均気温10.0℃ 年間降水量1,900 ~ 2,000mm
長野県の北西部に位置し、西側の白馬連峰一帯は、急峻な山岳地帯で、登山、ハイキングなどの観光産業が発達。特に、冬季は日本海からの寒気の影響で多量の降雪がもたらされ、日本でも有数のスキーリゾートとなっている。


全部遊びで、全部仕事。区別はつけません

訪れたのは、東京・池袋にある立教大学の研究室。早春の曇り空の下、蔦のからまる?瓦造りの建物は落ち着いた色彩で、その奥にあるガラス張りのモダンなビルとともにシックな魅力を放っている。

「昨日の夜、東京にやってきました。本当はもっと白馬で過ごす時間がほしいのですが、学校では何かとこちらにいないといけないことが多いものですから」

高柳寛樹さんは、小学校から立教に通い続け、大学院修了後も教員として勤めている。もうかれこれ40年近くもこの学府に籍を置く筋金入りの立教っ子だ。

「テスト的にスカイプを使った遠隔講義も導入しています。当然、受講生はどこからでも参加できるわけですが、まだ特殊な事例の域を出ない段階ですね」

大学時代、社会学を専攻していた高柳さんは、当時社会に浸透しはじめたインターネットを使ったビジネスに興味を持ち、ソフトウェアの開発を行う会社、ウェブハット・コミュニケーションズ(現・ウェブインパクト)を在学中に設立した。

いち早くノマド・ワーキングを取り入れ、豊橋や郡山など地方にコアと呼ぶ拠点を置き地方創生とリンクさせるなど、斬新なアイデアを次々と取り入れてきた高柳さんは現在、ウェブインパクトのほかにも複数の会社を経営している。

それだけではない。幼少のころからエレクトーンを習い、コンクールでの受賞歴もある高柳さんは、なんと作曲家としても活動しているのである。

「私は大学2年で起業したのですが、その前、高校生のときにはゲーム会社に自分が作った楽曲を販売していました。現在でも、僕の収入の1割程度は音楽によるものなんですよ」

教育者、経営者、そして作曲家。多岐にわたって活躍する高柳さんは「ただ好きなことをやっているだけですよ」と笑う。

「大事なのは、どれが主業でどれが副業とか、区別をつけないことですね。収入の多い少ないにかかわらず、僕にとってはすべてが主業。そう考えてどんな仕事にも全力で取り組むことで、すべてが順調に進むのだと思っています。加えて、僕の場合は、すべてが仕事であると同時に、すべてが遊びでもあるんです。僕はスキーが大好きなのですが、現在、私の活動のなかでは、スノーリゾートやスノー産業からの仕事の割合がどんどん増えているのです」

白馬村は冬はスキー、夏は登山が盛ん
スキーを楽しむ高柳さん。シーズン中はスキー場がオープンする8 時から滑り、10 時から仕事をする

いつでもスキーができる環境を求め、白馬へ

冒頭で白馬から東京に「やってきました」と言っていたとおり、高柳さんの拠点は長野県白馬村だ。

3年前に白馬で土地を購入し、家を建てた。その理由は、先ほども触れたスキーだった。
「大学では競技スキーのクラブに入っていて、大学院に進んでからは忙しくて遠ざかってしまっていたのですが、その間に外国人スキーヤーが北海道のニセコに多くやってくるようになったりして、おもしろそうなので再び始めたんです」

毎週金曜日の夜に北海道へ出発し、月曜日の朝に東京に戻ってくる生活。そうなると移動や宿泊にかかる費用もかさむ。

「だったら、どこかに土地を買って住んだほうがいいのでは、と考えるようになって。白馬にはニセコと同じぐらい頻繁に通っていて、知り合いも多くできたので、ここだったら、と住むことを決意しました」

土地を買って、その10か月後には家が完成。まるでビジネスのようなスピード感には驚くばかりだが、それも高柳さんの明確なビジョンがあったからこそ、なのだろう。

ビジネスで地域との関係を構築するのもひとつのやり方だと思います

白馬村の自宅から大学の遠隔授業を行うことも
白馬八方尾根スキー場の「うさぎ平テラス」で仕事をする高柳さん。会議が中心で、滑っていないときは仕事に集中する

ビジネスで地域発展の一助に

さて、ここで気になるのは、地元コミュニティとの関係性だろう。
「とくに町内会などとの交流はしていません」という高柳さんだが、彼らしいかかわり方、地域貢献の仕方を聞くことができた。

「地元に受け入れられるための活動は大切ですよね。私はまず住民票を移し、白馬村に税金を納めるようにしました。それだけでも地元の方々とのコミュニケーションがかなり滑らかになった気がします。あと、僕の場合は人を呼んでくる。スキーをする人たちをはじめ、例えば50人ぐらいの企業研修を呼んできたり、自分でゼミの合宿をしたり。ビジネスで地元に貢献するのは、わかりやすいやり方なのかな、と思いますね。

先ほど申しあげたスキー場の仕事というのは、1日券やリフト券などの発行をオンライン化するシステムを作ることで、利用者にとっては待ち時間の削減、施設にとっては人手不足の解消になるお手伝いをしているんです」

学校以外の仕事はパソコンとインターネット環境があればできる。近年はスキー場でも電波だけでなくインターネットのWi-Fiもつながるので、1日中スキー場で仕事することも多いという。

「スキー場にいると『いつも遊んでていいね』なんて言われることもありますが、『いや、仕事してるんですよ』と(笑)」
最後に多拠点での生活を検討する人へのメッセージを。

「やってみたい、と思ったら、すぐ行動に移すのがいいですよ。人間の行動原理から分析すると、熟考すればするほど、できなくなってしまう。住む拠点を変えるなんて、なおさらです。相談とか調査なんて飛ばしてやってしまうぐらいの思い切りのよさが必要だと思いますね。あれこれ考えるのはその後でもできますから」

夏の白馬は避暑地として知られる

2019 年12月に発売されたCD『biotopeⅡ』。心が落ち着くポップスだ。Amazon等で購入可能。高柳さんは、各家にピアノやキーボードを置いていて、いつでも演奏できるようにしているという

高柳さん執筆の本が出版されました!

『「IT前提経営」が組織を変える─ デジタルネイティブと共に働く』
高柳寛樹 著/近代科学社Digital
1,800円(税別)
テレワークやオンライン授業をはじめ、さまざまなIT 活用にいち早くチャレンジし、大きな成果を上げてきた著者が、具体的なエピソードを多数示しながら、丁寧に解説


Profile
高柳寛樹さん(43 歳)
■居住地:東京、長野県白馬村 ■移住経年数:3年
■職業:大学教員/会社経営者/作曲家
■移住先の住居:一戸建て
■地域住民との交流頻度:なし
■支援制度の利用:無 ■準備期間:なし

※この記事は「複住スタイルVol.1」に掲載されたものです。現在では掲載当時と状況が異なる場合があります。