2019年、観光施設・秩父ふるさと館内に、レンタル銘仙「イロハトリ」をオープンさせた関川亜佐子さん

▼埼玉県秩父市/秩父銘仙製造、レンタル・関川亜佐子さん 取材・文/大島佳子 写真/三浦希衣子

石垣市
人口:
約6万1,700人 面積:77.8km2 
埼玉県の北西部にあり、87%が森林。中央を荒川が流れ、東側に市街地・商店街、西側に水田などの農業用地が広がる。かつては荒川の水運で木材を江戸に運ぶ集積地として、また、秩父神社の門前町として栄えた。。

環境を変える選択肢のひとつが移住だった

華やかな色や柄が魅力の絹織物・秩父銘仙。古くから養蚕業が盛んだった秩父で作られ、大正から昭和初期には女性のおしゃれ着として全国的に人気に。国の伝統的工芸品にも指定されている秩父を代表する名産品だ。

関川亜佐子さんは、33歳のとき、11年間勤めた企業を辞めて東京から秩父市へ移住。いまは秩父銘仙を製造しながら、秩父銘仙のレンタルショップ「イロハトリ」を経営している。

「秩父に移住して伝統工芸に携わっていると言うと、まるで仙人のように思われることもあるんですが(笑)、実際は、転職にともなって東京から埼玉に引っ越した、くらいの感覚なんです」

30歳を過ぎたころ、仕事に対して、やり切った満足感を覚えたという関川さん。自分はまだ新しいことに挑戦できるという気持ちが生まれた。もともと古い文化に興味があって旅行も好き。そこで挑戦の選択肢のひとつとして、地方で伝統工芸にかかわる方法を調べ始めた。

当時はちょうど全国各地で地域おこし協力隊の制度が広まっていったころ。そのなかで、秩父市が秩父銘仙のPRを担当する地域おこし協力隊を募集していることを知る。

自分自身の転機と興味、地域おこし協力隊の条件が、タイミングよく一致した。
「着物が好きで秩父銘仙のことは知っていましたし、たまたま数か月前に旅行で秩父に訪れてもいました。普通に生活できる環境が整っていて、仕事があれば住むのに問題ない場所だなと思っていたんです」

秩父鉄道秩父駅から徒歩約5分。秩父の名産品が展示販売され、郷土料理を楽しむこともできる施設「秩父ふるさと館」のなかにある

地域おこし協力隊でのご縁が次の仕事に

関川さんは、地域おこし協力隊の採用決定後わずか1か月で準備をして、秩父へ。住居は秩父市がアパートを用意してくれたため物件探しの必要がなく、かかった費用も東京からの引っ越し代くらいだったそう。

「ただ、収入は3分の1くらいになりました(笑)。家賃がかからなかったので、それまでと生活水準を変えずにギリギリで暮らしていけるくらいでした。貯金はできないし、それまでの貯金が減ることもありましたけど(笑)」

地域おこし協力隊の仕事は、1年更新で最長3年。その後は秩父銘仙にかかわることは決めていたが、具体的な目標は最初から明確ではなかったという。地域おこし協力隊の活動内容は、秩父銘仙のPRがメイン。その一環で、歴史ある織元・逸見織物で機織り修業を経験したことで、「秩父銘仙を作りたい」という思いが固まっていく。

「伝統産業に携わりたい、後世に残したいという気持ちもありますが、単純に自分が作りたいからというのが大きい。ただ販路をどうするかが悩みのひとつでした」

そこで行き着いたのが、レンタルだ。手軽なレンタルなら、地元住民や観光客など幅広く受け入れてもらえる。そして2019年1月、地域おこし協力隊を続けながら、「イロハトリ」をスタート。オープンにあたっては、地域おこし協力隊の活動を通じて知り合った地元の方々が力になってくれた。

「お店はもともと逸見織物さんが使用していた場所。建物の秩父ふるさと館は商店連盟が管理しているんですが、その会長にもよくしていただいていて、スムーズに話を進めることができました」

いつか自分の作った秩父銘仙を
お店で販売したい

色とりどりの秩父銘仙が並ぶイロハトリの店舗。関川さんが制作した銘仙も、着物にして貸し出している。写真左下は、現在準備を進めている自宅併設の工場。機織り機のほかに、捺染台や染色用蒸し器などを備えている

会社員時代の貯蓄で古民家を住居兼工場に

2019年9月に地域おこし協力隊の任期を終えてからは、賃貸の一軒家に移転。そこを住居兼工場として使うため、現在はレンタルの予約が入っているときや週末は店で仕事をし、それ以外は工場の準備や商品開発を行っている。東京から秩父に移住したときは住居探しの必要がなかった関川さんだが、今回の一軒家は契約まで1年半の時間を要した。

「仲間の地域おこし協力隊が空き家再生の活動をしていて、そこで扱う古民家を借りることにしました。ただ、工場としても使うため、条件を詰めるのに時間がかかったんです」

最終的には、自由にリフォームして現状復帰もしなくてOK、ただしリフォーム代は全額関川さんが支払うことに。その代わり、家賃は相場よりぐんと安い月1万円になった。リフォームでは、建物の約半分を工場用にコンクリートの土間にし、電気系統を強化。住居部分は、水回りと床を直した。その額、約500万円。会社員時代の貯金を使ったという。

「いまは、工場に機械を入れているところ。逸見織物さんや秩父銘仙協同組合に協力してもらって、もう使っていない中古の機械を安く譲ってもらっています。みなさんの厚意に甘えて(笑)」本来は機織りと染めなどの作業は分業で行うことが多い秩父銘仙の製造。

関川さんはひとりでできるようにするために、新しい工法をいろいろと試している。そのため、まだまだ失敗の連続。まずは反物を完成させることを目標に、将来的には1週間で4反程織ることを計画している。

作った反物は着物にしてレンタルに出し、お客さまの反応を見て、次の商品開発に活かす。そしてゆくゆくは販売もしたいという。それだけでなく、関川さんはさらにその先も見据えている。

「中長期的には、製造を任せられる後継者の育成を行っていきたいと思っています」

地域おこし協力隊時代は、秩父銘仙の展示や販売を行うちちぶ銘仙館の運営補助や、織元・逸見織物での機織り修業を経験

イロハトリ

大正時代の建物を改装した秩父ふるさと館内にあり、季節ごとに100点ほどの着物と、羽織や小物を用意している。レンタルだけでなく、秩父銘仙の技法・型染を気軽に体験できるプランも。

埼玉県秩父市本町3-1 秩父ふるさと館1階 
050-7109-1331 
土・日曜、祝日10:00~17:00(レンタルは予約制、16:30まで)

好きなことは諦めず休日はこれまでどおりに

地方への移住については、「すべてを捨てる必要はない」と関川さん。ご自身も、仕事と日々の生活リズムは変わったが、休日の過ごし方は東京で会社員をしていたときとさほど変わっていないという。

「東京から近いので、友人と会ったりコンサートに行ったり観劇に出かけたりもできます。仕事終わりに習い事に行くようなことは難しくなりましたが、どこに住んでいても、何でもできるところってないのかなと」

最後に、移住を考えている方に伝えたいことを聞くと、こんな答えが返ってきた。
「新しいことに慣れていくのは大変な面もあります。いまはお試しや二地域居住などの選択肢があるので、そこから始めてみるのもひとつ。まずは、“変えたいもの”と“変えたくないもの”の優先順位をつけてみてはいかがでしょう」

地域おこし協力隊について一問一答

Q.地域おこし協力隊に参加した理由は?

A.もともと着物が好きで、秩父銘仙のPRの仕事に興味があったので。

Q.どうやって、秩父の協力隊の仕事を見つけたの?

A.「伝統工芸」「移住」などのキーワードでウェブサイトを検索していて、たまたま見つけました。

Q.具体的にどんな仕事をした?

A.「秩父銘仙のPR(イベントやメディア対応)、秩父銘仙の機織り修業、ちちぶ銘仙館の運用補助、秩父銘仙のレンタル、商品開発など。

地域おこし協力隊時代の関川さん。実際に秩父銘仙を着てPRも

Q.協力隊には任期があるが、その後について不安は?

A.最長3年間の任期の間に方向性を決められたので、大きな不安はありませんでした。


Profile 関川亜佐子さん(37歳)

■移住地:埼玉県秩父市 ■移住経年数:3年5ヶ月 ■移住前の職業:会社員 ■移住後の住居:アパート→古民家(賃貸) 
■家族構成:単身 ■収入の変化:減った ■地域住民との交流頻度:隣組に参加 ■支援制度の利用:地域おこし協力隊 ■準備期間:地域おこし協力隊採用後1ヶ月で引っ越し

移住の相談は「秩父市移住相談センター」へ

秩父鉄道秩父駅直結の秩父地場産センター4階にある。移住を検討する方に向け、さまざまな支援制度やお試し居住住宅などを案内。秩父で暮らすためのサポートをしてくれる。

秩父市移住相談センター

0494-26-7946
https://www.chichibu-iju.com/

※本記事は複住スタイルVol.1に掲載されたものをWeb用に投稿したものであり、雑誌掲載時と内容が異なる場合があります。