自動車メーカー大手のダイハツ工業株式会社(以下、ダイハツ)が自然豊かな里山で農業支援に取り組んでいる。拠点となるのは築160年を超える古民家を再生した施設「mocca」。ここで何が起ころうとしているのか、キーマン3人に話を聞いた。

取材・文/相澤良晃 写真/清家 洋

ドローンを使って農薬散布を代行

兵庫県丹波篠山市の北西部に位置する大山地区は、かつて林業で栄えた地域である。古くから農業も盛んで、山あいの田畑では特産の黒豆をはじめ、里芋や米などが作られてきた。しかし近年は高齢化と後継者不足により、廃業する農家が増えている。そんな状況に歯止めをかけようと、自動車メーカー大手のダイハツがドローンを使った農業支援に取り組んでいる。

「このあたりの農家さんの困りごとのひとつが、農薬散布。散布用の大型機械を導入できない小規模の農家さんが多く、手作業にならざるを得ません。その負担を軽減しようと思いついたのが、ドローンによる空中散布です」

プロジェクトを牽引するコーポレート本部の谷本敦彦さんはこう説明する。現在、3名の社員が荷台を改良した軽トラックに専用ドローンを積んで、地域の農家をめぐっている。ドローンを貸し出すことも考えたそうだが、農家の負担を最大限に減らすため、作業そのものを代行することに。頼まれれば、草むしりや収穫など、農薬散布以外の作業も手伝う。そこには、農家と同じ目線に立ち、本当に必要とされる支援を提供したいという思いがある。

しかしなぜ、自動車メーカーが農業支援を?
「僕たちのベースは軽トラです。農業がなくなったら、軽トラも必要なくなって、ダイハツの存在意義も薄れてしまう。いわば僕らは、農家さんと運命共同体なんです」

農業を諦めないでもらうこと。里山の暮らしを守ること。「それは単に車を売ることよりも大事なことなんです」と、谷本さんは力を込める。

ドローンは完全自動飛行。タブレットで起動すれば最適なルートで圃場の上空を飛び、農薬を散布する
「ここで農業支援のノウハウを蓄積して人材を育て、ほかの地域にも活動を広げていきたい」と話す谷本さん

活動拠点は築160年の古民家

この活動の拠点になっているのが、築160年以上と見られる古民家をリノベーションした施設「mocca(モッカ)」だ。漢字で書くと「木加」。〝木を暮らしに加える〟という思いが込められている。ダイハツが利用しているコワーキングスペースのほか、木工用の機器をそろえた工房や製材所、宿泊施設を備え、山や木にかかわりたいという個人や企業の活動・交流拠点を目指している。運営しているのは、市内の若手林業家たちが立ち上げた「デカンショ林業」だ。

同社のコモンを務める金野幸雄さんは、篠山市の元副市長。「輸入木材の増加の影響などで、国産材の需要が減り、このあたりの山も荒れてしまっている。山の健康状態と向き合って、環境に、経済に、レジャーに……と、多様な山の使い方を一緒に考えていく仲間が集まる拠点にしたい」という。今後、主に地域外の人を対象とした会員制度「大山クラブ」を設けて、木工や自然体験などのワークショップを開催していく予定だ。

現在、「mocca」はプレオープンの状態で、利用しているのはダイハツのみ。正式オープン後はサテライトオフィスとしての活用も見込んでいる。同社の主力製品のデザインを長年、手がけてきた青山尚史さんは、本社のある大阪の池田市から通って「mocca」をお試しで利用中。

「池田から車で1時間ちょっと。自然を見ながらの通勤・帰宅は、心と頭がリフレッシュされて、仕事の効率も上がります。実は今年4月からデザインの現場を離れ、地域活性化の事業部を立ち上げました。その拠点としてもmoccaを利用していきたいですね」

これまで数回、衣料品メーカーや飲食チェーンなど、異業種の経営者クラスを招いてオフサイトミーティングを開催。そこでの出会いがきっかけとなって、経済状況の苦しい家庭の子どもたちに、お弁当や衣類を配るボランティア活動につながったという。もちろん、配送に使ったのはダイハツの車だ。

入り口から入ると、正面にコワーキングスペースがある。梁や柱、土間が残されており、古民家の風情が感じられる
作家さんの雑貨なども販売。奧の工房で木工のワークショップの開催も予定している
開放的な空間で議論も活発に。「里山の暮らしを守りたい」という同じ志を持った仲間が集まる

最後に、谷本さんに今後の展望を聞いてみた。
「やっぱり、人と人とのつながりから生まれる、化学反応がおもしろいんですよ。農業支援、仕事、人材交流。moccaをこの3つの活動の拠点として、地域社会のためになる取り組みに、どんどんチャレンジしていきたいですね」

金野さんは、古民家の再生や利活用などで全国的に知られる一般社団法人ノオトの創設者でもある
「mocca」のロゴをデザインした青山さんは、海外でも活躍し、世界的な賞の受賞経験もあるカーデザイナー

※本記事は複住スタイルVol.2に掲載されたものをWeb用に投稿したものであり、雑誌掲載時と内容が異なる場合があります。