移住先で新たな仕事に就きたいと思っている人は、「漁師」に挑戦してみないだろうか。漁業従事者は年々減少傾向にあるが、実は未経験から漁師にチャレンジする人も少なくない。
今回は、漁業を目指して移住を考えている人に、漁師を募集している自治体(都道府県)を紹介しよう。
漁業従事者は年々減少傾向
水産庁の調査によると、国内の漁業従事者は1988年からの30年間で61%減少した。2018年の漁業従事者は約15万人だ。
漁業従事者の年齢層も年々高くなっている。漁業の中でも自家漁業に従事する人は75歳以上といわれている。
漁業の世界では、若い世代で活躍できる人が年々貴重になっている。
漁師(漁業)の主な種類
漁師の種類には主に「沿岸漁業」と「沖合・遠洋漁業」がある。
沿岸漁業
沿岸漁業には2つの特徴がある。
- 陸から近い、日帰りできる場所で小型の船で漁業する
- 魚の種類は季節によって違い、貝や海藻も獲る
沿岸漁業の漁法は刺し網漁やカゴ漁、延縄(はえなわ)などさまざまだ。日本人の約8割が沿岸漁業を行う。
沖合・遠洋漁業
沖合・遠洋漁業の特徴も2つある。
- 大型船で日本から遠く離れた漁場で漁業を行う
- 沖合漁業は2、3日で帰れる範囲の漁業を行い、遠洋漁業は一度漁業に出ると1ヶ月、長い間は1年半帰国しないこともある
沖合漁業の種類はアジやサンマ、サバなどの漁をしていて、遠洋漁業の種類はマグロ延縄(はえなわ)漁業やイカ釣り漁業などを行っている。
沖合・遠洋漁業で獲れた魚類は、船内で冷凍し持ち帰るのが一般的だ。
漁師になる魅力
漁師になると収入アップだけではなくやりがいもある。ひとつずつ見ていこう。
大漁になれば収入アップにつながる
漁師がやりがいを感じるのは、狙っていた魚を獲れたときや大漁のときだろう。大漁になれば収入アップにもつながる。
漁業は体力だけではなく頭脳も使う仕事だ。狙い通りの場所で魚が獲れて、市場で高値がつけば、収入と共にやりがいにもつながるだろう。
大自然を感じて仕事ができる
漁師が相手にするのは巨大な海だ。漁師は季節で獲る魚の種類を決めて、常に潮の流れや風向きを見ながら漁をする。天候にも左右される仕事だ。
自然は常に同じ状況ではなく、思い通りにいかないことの方が多いだろう。収入も安定しないのが現実だ。
それでも、大自然を相手に仕事をすることや、予想を超えて大漁となったときに幸せを感じる漁師も多いようだ。
地域の人々の食を支えられる
日本人は古くから魚を食べる生活をしてきた。魚は人々の食を支えている。海外で人気の寿司や刺身も、漁師が獲ってきた魚たちだ。
魚介類は国産だけではなく、最近は安価に食べられる海外からの輸入物も増えている。
ただし、消費者は漁業を担う人たちに「国民の食を支えることで人の役に立つことや新鮮な魚介類・恵まれた自然環境を享受できる」ことを評価している。
国産の魚介類は根強い人気があり、需要もある。消費者としては、国内の漁業従事者に期待をしている。
漁師の仕事をしている人たちもまた、漁業の魅力を発信したり、地域のブランドの魚などを開発したりする取り組みを通じ、地域の人、さらには国民の食を支えているのだ。
漁師で大変と感じることは
漁師にはさまざまな魅力がある反面、想像を超える大変さもあるということを知っておきたい。
危険が身近にある環境
漁師の職場は、危険が身近にある環境だ。海は常に穏やかではなく、ときには猛威をふるい漁師たちの命を脅かす。
船で漁業をする場合、船からの転落や船の転覆、遭難なども多い。船が事故に遭うこともあるだろう。小型船でひとりで漁業をしていれば、発見が遅れてしまう可能性もある。
漁師は危険と隣り合わせということを、常に頭に入れておきたい。
天候で収入が左右される
漁に出るときにいつも天気が良ければありがたいが、そうではないのが現実だろう。漁師は天候や災害で収入が左右される仕事だ。
特に日本は台風が多いため、沿岸漁業の漁師たちは影響を受けやすい。台風による暴風雨であれば船も出せないため、収入も減ってしまう。
天気だけではなく災害にも注意が必要だ。震災などでいったん船がダメージを受けると、修復には資金が必要になる。
漁師は天候や災害で自分の収入が安定しないほか、出ていくお金も増えてしまうのだ。
重労働だが収入が不安定
漁師は魚を獲るだけが仕事ではない。網を使って漁業をする場合は、自分の体重よりももっと重い網を引き揚げたり引っ張ったりする。
獲れた魚を陸に上げる作業や、荷物を船に運び込むなど、漁師は常に体力勝負。真冬や真夏に漁に出ると、思った以上に体力を使う。
大漁であれば報われたと感じるが、魚が獲れなければ収入も不安定になる。
漁師は、精神力と体力のバランスをとるのが難しい職業であることも忘れてはならない。
移住先で漁師をするためのステップ
ここからは、移住先で漁師に挑戦したいと考えている人へ、漁師になるためのステップを3つ紹介しよう。
情報収集する
どの仕事にも言えるが、漁師になるためにも大切なのは情報収集だ。先に紹介した漁業の種類によっても仕事内容や平均収入も変わる。
自分が目指す漁師の姿がまだぼんやりしているなら、できるだけ多くの情報収集をして、目標の漁師像をイメージしておこう。
漁業体験やセミナーに参加する
情報収集だけではイメージがわかない場合は、漁業体験やセミナーに参加するのがおすすめだ。
漁業体験では、実際に漁船に乗って漁師の仕事を見る体験ができる。移住先で漁業組合などを訪れ相談してみると良いだろう。
セミナーは漁師の体験談を聞ける機会だ。仕事内容だけではなく、漁師のスケジュールなども教えてもらえる。
漁師体験セミナーは、全国から参加できるようにオンラインで実施される場合もある。
詳しくは、「漁師.jp(全国漁業就業者確保育成センター)」のホームページを確認したり、移住希望先の自治体もチェックしたりしよう。
求人情報で漁師の求人を探す
移住先ですぐに漁師の仕事を始めたいなら、先ほど紹介した「漁師.jp」のサイトを活用しよう。漁業求人情報検索システムから募集中の漁業求人を検索できる。
未経験で漁師になるには
漁師を目指したい人が気になるのは「未経験でもできるのか」というところではないだろうか。
結論は「イエス」。水産学校を出ていなくても、未経験でも漁師の仕事を学べる場所がある。
漁業学校に通う
全国には「漁業学校」が17校ある。漁師になるための資格はいらないが、漁業会社に就職したり、個人で漁業を始めたりするにしても、漁師の知識を持っていた方が役に立つ。
漁業学校は漁業をするための学校だ。即戦力になるための技術と知識を習得できる。
国は、漁業学校などで学ぶ人に対して就業準備金を交付している。
お金のことを気にせずに漁師の勉強に集中でき、就職率も高い漁業学校は全国の漁業組合からも注目されている。
漁師の先輩に弟子入りする
漁師の先輩に弟子入りすると、早くから船に乗り込み師匠の仕事を繰り返し見たりノウハウを聞いたりできるため、漁師の仕事が身に付くスピードも早い。
移住先でコネクションを作り、漁師の弟子入りを志願するのも良いだろう。
漁師の移住支援がある自治体(都道府県)5つをピックアップ
最後に、漁師の移住支援がある自治体を5つ紹介する。
高知県
出典:高知で漁師
高知県というとカツオ1本釣りが頭に浮かぶが、実は1本釣りだけではなく、底引き網漁、引き網漁、定置網漁と漁業の種類はさまざまだ。
そして高知県は漁師になりたい人へのサポートが充実している。
- 漁業体験研修
- 自営漁業者育成事業
- 雇用型漁業支援事業
- 漁家子弟支援事業
- 漁業経営安定化研修事業
- 漁業就労安定対策事業
紹介しただけでも6つの支援事業があり、自営で漁業したいか、漁業会社に所属するかでも異なるサポートがある。
経営の勉強もでき、漁師を目指す人へ手厚い支援をしてもらえる。
山口県
出典:山口県で漁師になろう
山口県は、未経験で漁師を目指す人におすすめの移住先だ。県では2年間の長期漁業研修制度で漁師希望の未経験者を支える。
また、研修が終了した後から3年にわたり「経営自立化支援金」が支給される。漁船や漁具などを取り入れる際にもリース料の支援もあり、地域によっては公営住宅への入居も可能。
希望者には2泊3日の漁業体験もある。
資金に不安がある人は山口県の支援を上手く利用して漁師を目指すのも良いだろう。
福井県
出典:漁業就業者育成センター|JF福井漁連
福井県は、定置網漁や刺し網漁、一本釣り漁、底引き網など、獲れる魚介類に応じてさまざまな漁法がある。
福井県では漁業での新規就職を目指す人へ「がんばる海の担い手対策事業」を行っている。
これは、漁業をしたいけれど不安がある人へ、実際に体験をして福井県の漁業を知ってもらう制度だ。がんばる海の担い手対策事業フローは以下のように進んでいく。
- 就業フェアやハローワークなどで県内漁業求人情報を収集
- 漁業体験と漁業実務コースを受け、就業の適否を判断
- 漁業が適職と判断された場合は乗組員として就業しキャリアを積む
新規就業者へは、見習い期間中は定期支援貸付金が貸与される。また技術指導もしてもらえるため、安心して福井県で漁師を目指せるだろう。
島根県
出典:漁師を目指す皆さんへ|島根県
島根県では、県で新たに沿岸自営漁業(漁師として独立する)を目指す人へサポートを行っている。
県では漁業に関する相談会を対面とオンラインで開催。仕事の都合で平日に電話ができない人へは休日や夜間に相談できる機会もある。
体験乗船会も随時企画されており、島根県の沿岸漁業を体感できるほか、先輩漁師や経営者の生の声も聞ける。
県では新規自営漁業者育成事業があり、最長2年間ベテラン漁師から実践的な技術指導を受けられる。
研修を受けて新規漁業者として認定された後の支援もあり、長期的なサポートを受けられる。
福島県
出典:福島県次世代漁業人材確保支援事業(PDF)
福島県は、国と民間団体、漁連などと連携し、県内外から漁業従事者を広く受け入れている。移住して漁師を目指したい人へのサポートも3つある。
- 漁業現場での長期研修
- 漁業者の経営や技術の向上支援
- 希望者のインターンシップやトライアル雇用の受け入れ支援
漁船や漁具のリース制度もあるため、漁師の仕事をスタートさせた後の支援も期待できる。
漁師は未経験でもチャレンジできる!漁業を募集している移住先を探そう
漁師を募集している移住先は多く、未経験でもチャレンジできる。
長きにわたり日本の食の中心にある魚を獲って日本の食を支援する漁師を、移住先で転職を考えている人はぜひ選択肢のひとつに加えてほしい。