地方移住をしたいと思っているが、移住先で仕事に就けるかどうか、不安に思う人もいるかもしれない。移住先での仕事について注目されているのが「継業」だ。
この記事では継業とはいったいどのようなものなのか、そして継業に力を入れている全国の自治体などを紹介していく。
「継業」とは?
まずは「継業」とは何か、ということから知っておきたい。継業とは、身内ではなく、第三者に事業を継いでもらう取り組みを指す。
継業と似た言葉に「事業継承」があるが、継業は事業の経営権を受け継ぐという、事業継承の一種なのだ。
継業は、事業と言っても、地域で継承者のいなくなった「生業(なりわい)」を引き継ぐことで地域を活性化する役割を果たすため、近頃は地域に住んでいる人だけでなく、その地域へ移住を希望する人たちからも注目されている。
継業が注目される理由
継業が注目されている理由には以下のようなものがある。
経営者の高齢化・後継者不足
事業継承の種類であるM&A(企業の合併・買収)で事業の売り手となった中小企業は、1990年代に経営者の年齢が40代だったのに対して、20年経った2015年頃には、経営者の年齢は60代となり、高齢化が進んだ。
また、企業の経営者が廃業を考える理由のなかには、後継者がいないというものも含まれる。
2021年に帝国データバンクが行った全国企業の後継者不在率動向調査によると、全国の調査対象とした企業のうち、約6割が「後継者がいない」あるいは「未定」という回答だった。
このなかには、地域の産業を支えてきた企業もある。
参考元:第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命|中小企業庁
参考元:特別企画:全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)|帝国データバンク
労働人口が減少
「生産年齢人口」(労働人口)とは、日本国内の生産活動を中心となって行う15歳~64歳の人口を指す。
生産年齢に該当する人々は、経済の活性化と社会保障を支える重要な存在だ。その生産年齢人口は、2065年には2020年と比較して約2,900万人減少するといわれている。
参考元:人口減少と少子高齢化|内閣府
自身・周辺の環境変化
継業が注目されている理由として、後継者不足や生産年齢人口の減少などがクローズアップされがちだ。
しかし、継業を考える人のなかには、都会から地方にUターンし、自身の実家を継ぎたいという想いを持った人もいる。
また、結婚や出産、親の介護などライフステージの変化も関わっているようだ。
継業の利点
ここからは継業を選ぶ場合の利点(メリット)を紹介していく。
起業するよりリスクが低い
初めから事業を起こそうとする場合、
- 物件の確保
- 借り物件の場合は月々の賃料
- 設備投資
- 集客や地域のネットワークのつながり
などなど、初期からさまざまな資金やコネクションづくりが必要となる。
これに比べて継業は、
- すでに物件はある
- 設備も整っている
- 既存顧客や取引先がいる
など元の経営者の事業を継ぐため、引継ぎがスムーズに進むほか、リスクも低い。
地域で営まれた生業を継ぐことができる
継業することは、地域の産業を担ってきた生業(なりわい)を継ぐことだ。前経営者が培ってきた形のある資産と形のない資産、ともに受け継ぐことは魅力的ではないだろうか。
また、地域で深刻になりつつある空き家問題への対応にもなり、地域の再活性化につながる。
新たな価値観や視点を地域の人と共有できる
脈々と受け継がれた生業をそのまま受け継ぐことも大切だ。しかし、受け継いでほしいと思う経営者のなかには、地域を盛り上げていくために新たな視点や価値観を期待する人もいるかもしれない。
例えば、今までアナログで行っていたことをデジタル化するだけでも仕事がスムーズに進む。
継業した仕事についての新しいアイデアや視点があれば、地域の人に共有することは、ゆくゆくは地域の担い手となるのであれば大切になるだろう。
継業の弱点
継業には魅力や利点がある反面、弱点もあるということを知っておいてほしい。
元の経営者からの借金を受け継ぐ可能性もある
継業する企業のなかには、資産のほかに借金を抱えている場合もある。継業するとその借金も一部肩代わりする可能性も。
負債は金融面だけでなく、取引面もある。継業する前には専門家に手伝ってもらいながら財務状況を確認することが大切だ。
前経営者とのトラブルに巻き込まれる可能性も
前経営者と新経営者とのトラブルは継業でも起こりうることは頭に入れておきたい。相続トラブル、前役員とのトラブルなどが発生するかもしれない。
継業をする際、前経営者の事業方法を全て引き継ぐのではなく、一部は再構築することで今後の経営がスムーズになる場合もある。その際に、元の経営者が意見してくることもあるだろう。
地方移住希望者が継業を探す方法
さまざまな事情で地方移住を考える人が、さらに継業を探す場合はどのような方法があるかを見ていこう。
自治体の事業引継ぎ支援センターを利用する
全国47都道府県には、「事業引継ぎ支援センター」が設置されている。このセンターは国が設置する公的相談窓口で、親族間での承継や、第三者への引継ぎなど、継業や事業継承の相談に乗ってくれる。
事業引継ぎ支援センターでは、
- 事業継承や引継ぎの相談
- 引継ぎに関しての課題や問題の抽出
- 引継ぎ計画の策定
などを無料で行っている。
事業引継ぎ支援センターの支援内容は全国一律ではなく、都道府県によって継業を求める経営者と継業をしたい移住者のマッチングや、経費の補助など独自のサポートを行っていることもある。
事業引継ぎ支援センターの公式サイトに各都道府県のセンターの公式リンクが掲載されているので参考にするとよいだろう。
事業引継ぎ支援センターの支援内容の1つとして、「後継者人材バンク」もある。
これは、自身の技術や培ってきた経験を活かして創業を目指す人と、後継者を求める会社とのマッチングを支援する事業だ。この支援を利用するのもよいかもしれない。
後継者募集求人サイトを参考にする
国が全国に設置して相談を受ける「事業引継ぎ支援センター」以外にも、継業をマッチングするプラットフォームや、募集求人を集めるサイトなどがある。一部を紹介していこう。
relay(リレイ)
出典:relay
relay(リレイ)は、後継者を探す事業主をメインに取材し、その情報を記事として公開、継業希望者とマッチングを支援する企業。
情報だけでなく、事業主の想いもオープンとなっており、リアルな声を見ることができる。
Batonz(バトンズ)
出典:Batonz
M&A(企業の合併・買収)を検討しているなら注目したいのが、Batonz(バトンズ)だ。取り扱い案件は全国規模で、相談などにかかるコストは無料(買い手側は成約時に2%)。
M&Aにはだいたい約1年かかるところを最短3ヶ月で成約が実現することもある。M&Aに精通したスタッフに無料で成約まで支援してもらえるのも心強い。
ニホン継業バンク
出典:ニホン継業バンク
自治体やまちづくりの団体などと、地域ぐるみで継業に取り組んでいるのが、ニホン継業バンク。
伝統技術を継承し、地域の担い手になりたいと考えている人はこのサイトを見てみよう。記事としても読みごたえのある継業希望者の物語を読むことができる。
継業に積極的に取り組む自治体6選
全国のなかでも、特に継業に積極的に取り組む自治体を6ヶ所紹介する。
【埼玉県】入間市(いるまし)
出典:入間市|埼玉ではじめる農あるくらし
入間市は埼玉県南西部に位置しており、豊かな自然とともに暮らしながらも、首都圏へのアクセスが良いことから、ベッドタウンとして発展してきた市である。
市内は狭山茶の畑が広がっており、農業を中心とした継業の担い手確保に取り組んでいる。
入間市では「人・農地プラン」という、農業に携わる人々の高齢化や後継者不足などの問題を解決するため、将来の地域農業のあり方を設計するプランを策定。
実質化した際には次世代で農業をしたいと考える人に対して、経営確立の支援のための資金が交付される。
現在、この人・農地プランが実質化されているのは入間市の金子地区だ。
広大な狭山茶の畑があり、露地野菜栽培が盛んな地域であるが、昨今は後継者不足や高齢化に悩まされており、新規農業者や継業に取り組んでいる。
【青森県】八戸市(はちのへし)
出典:はちのへ創業・事業継承サポートセンター
青森県八戸市は、「はちのへ創業・事業継承サポートセンター(8サポ)」を市と八戸商工会議所とともに開設し、創業および事業継承支援を行っている。
中小企業経営者の高齢化や後継者の人材確保は、八戸市を含め全国的な問題だ。不本意な状況での廃業を避けるため、8サポでは次世代へ円滑に事業継承が進められるよう、あらゆる相談に応じている。
8サポ内には中小企業診断士など専門家もいて、継業に関する悩みの相談に乗ってもらえる。
親族外の継業に関しては、青森県のセンターと連携しながら、引継ぎの専門家とともに実現へのサポートをしてもらえる。
また、将来企業を継ぐ予定の人たちへ、経営力の育成や資質向上のための「事業継承塾」なども開催し支援。創業希望者と後継者の不在に悩む経営者とのマッチングサポートも実施している。
【兵庫県】姫路市(ひめじし)
出典:兵庫県事業継承・引継ぎ支援センター
姫路市がある兵庫県は、親族間の承継や第三者への引継ぎなど、事業の後継者への引継ぎに関するあらゆる相談に応じる引継ぎ支援センターがある。
兵庫県の事業継承・引継ぎ支援センターでは、県内の商工会、商工会議所、金融機関とともに、事業継承を考えている企業に対して適切な支援策を紹介している。
公式サイト内の「募集中の案件」には、サービス業、卸売業、小売業、製造業などさまざまなジャンルの企業がリストアップされており、それぞれの特徴なども分かりやすく記載されている。
岐阜県
出典:継業|ふふふぎふ
岐阜県では、移住・定住ポータルサイトの「ふふふぎふ」の中に継業のページを記載している。
継業を希望している移住者が、どのようなプロセスを踏んでいけばよいか、わかりやすく記載されており、移住と継業、両方を検討している人にとっては心強いだろう。
また、岐阜県内で継業を叶えた移住者のストーリーがいくつか記載されていて読み応えもある。
継業についてより深く知りたいという人は、この岐阜県のホームページを参考にしてみてはいかがだろうか。
大阪府
出典:後継者バンク|大阪府事業継承・引継ぎ支援センター
大阪府は、「大阪府後継者バンク」を運営し、後継者を探している中小企業や個人事業主の後継者作りを支援している。
後継者バンクに登録している希望者は30代~40代男性がメインで、大阪市・大阪市外の登録者が8割だが、2割ほど他府県からの登録者もいる。
譲渡を希望する事業者の事業ジャンルは、製造・建設・卸売り・サービス業などさまざまだ。
譲渡希望事業者の年齢は60歳以上が全体の約8割を占めていて、都市部でも高齢化は進んでいると言える。
大阪府の後継者バンクに登録希望の創業希望者(継業希望者)は、大阪府が連携する創業支援機関で相談をした後、後継者バンクで専門家と面談し、後継者バンクへの登録と言う流れとなる。
マッチング先の調査や引き合わせ、条件交渉から成約まで、後継者バンクのスタッフがサポートしてくれる。
広島県
出典:広島県事業継承・引継ぎ支援センター
広島県の「事業継承・引継ぎ支援センター」の公式サイトは、これまで引継ぎが完了した件数や譲渡希望、譲受希望、後継者バンク登録数などのデータが一目でわかるようになっている。
また動画や記事で、事業を引き継いだ事例や成約事例などを紹介しており、さらに事業引継ぎ支援センターの職員が定期的に継業についてのセミナーを開催。
移住先での働き方の1つとして、継業について詳しく教えてもらえる機会がある。
広島への移住、さらには継業を検討しているなら、事業継承・引継ぎ支援センター以外に、ふるさと回帰支援センターや移住メディア「HIROBIRO」などで情報を収集すると良いだろう。
継業は日本の産業の衰退を解決する一助となる
「移住先で地域とのつながりを深めたい」、「ゆくゆくは地域の担い手として活躍したい」と考えるなら、地域の産業を受け継ぐ「継業」もひとつの手立てと言えるだろう。
日本を支えてきた伝統技術や産業を受け継ぎ未来へとつなげていく継承は、産業の衰退を解決する一助となるかもしれない。