移住に興味を持っている方の中には、「多拠点生活」という暮らし方を知った人も多いのではないだろうか。
多拠点生活とは、複数の拠点を移動しながら生活するスタイルで、働き方や価値観の多様化を背景に、今注目されている。
本記事では、多拠点生活のメリット・デメリットや成功させるポイントを解説する。多拠点生活に相性のよい自治体や便利なサブスクも紹介するため、ぜひ参考にしてみよう。
多拠点生活とは
多拠点生活は、二拠点生活やデュアルライフなどのスタイルが注目される中で、今注目を集めている新たな生活様式だ。まずは、多拠点生活の概要や将来性などを理解していこう。
ひとつの場所に縛られない暮らし方
多拠点生活とは、二拠点生活・デュアルライフよりも場所に縛られない暮らし方で、帰る場所を複数もつ生活スタイルだ。あるときは田舎、あるときは都会、またあるときは自然の中など、ひとつの場所に縛られず柔軟に暮らすことができる。
また拠点をもたず、キャンピングカーやバンなどで各地で暮らすスタイルも多拠点生活と言える。キャンプ場や海、山など、季節や気分に合わせて居場所を変えられるのが魅力だ。
働き方や価値観の多様化が注目の理由
これまでは会社に出社する働き方が当たり前だったが、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけにリモートワーク・テレワークが急速に浸透した。ITツールを使えばどこでも働けることがわかり、ワーケーションや二拠点生活などのスタイルが生まれている。
ワークライフバランスを重視したり、スキルアップを目指したりするなど、働く人の価値観が尊重される環境も徐々に整い、柔軟な働き方ができるようになってきている。
多拠点生活は場所に縛られない暮らし方・働き方であり、働くスタイルや価値観の多様化が注目されるきっかけになったと言えるだろう。
「さまざまな地域の暮らしを体験したい」「全国を移動しながら働きたい」といった想いを実現する人が増えている。
今後さらに増加する予測あり
多拠点生活を送る人は、今後数年でさらに増加すると予想されている。働き方や価値観の多様性を認める流れがさらに広がれば、多拠点生活を実現できる環境が整い、憧れの多拠点ライフをスタートする人が増えるだろう。
実際、多拠点生活をしている「デジタルノマド」と呼ばれる人は、2021年時点で世界に3,500万人以上いると言われ、新たなビザ制度ができるといった動きも生まれている。将来多拠点生活をはじめたい人は、国内や世界の動きに注目しておこう。
多拠点生活のメリット
多拠点生活は住む場所に縛られないことから、さまざまなメリットを期待できる。4つのメリットをチェックし、多拠点生活のイメージを膨らませてみよう。
- 拠点のある地域でさまざまな出会いがある
- 異なる地域での暮らしや体験を楽しめる
- 仕事や生活にメリハリが生まれる
- 拠点を構える地域によっては移住支援制度を利用できる
拠点のある地域でさまざまな出会いがある
多拠点生活では、拠点のある場所それぞれで地域や人々との交流がある。都会や地方でさまざまな人と知り合うことができ、人間関係の幅が広がるのがメリットだ。
地方ならではの仕事をしている人と話せば、仕事への刺激を受けられるだろう。田舎の温かいコミュニケーションに触れて、ほっと心を落ち着けることもできるはずだ。
異なる地域での暮らしや体験を楽しめる
多拠点生活では、さまざまな拠点で暮らすため、その土地ならではの生活や体験を楽しめる。
それぞれの地域には、自然環境や食材などの特色があるため、アウトドアや食などを存分に満喫できるのがメリットだ。滞在する地域の観光地を回るのも、貴重な体験になるだろう。
仕事や生活にメリハリが生まれる
都会で仕事、地方で休暇といったように、拠点ごとに過ごし方を変えることで、メリハリのある生活を送りやすくなる。
拠点間を移動するスケジュールをあらかじめ決めておけば、区切りをつけられるのも魅力だ。たとえば、今週末に拠点に移動するなら、その日までに仕事を終わらせたり、食材を使い切ったりして、気持ちよく移動できる。すっきりした状態で移動すれば、心機一転してまた仕事や休暇を楽しめるだろう。
拠点を構える地域によっては移住支援制度を利用できる
多拠点生活のために地域に拠点を構える際に、自治体によっては移住支援制度の対象になる場合がある。移住支援金をはじめとしたサポートを受けられれば、コストや生活面で負担を軽減できるのが嬉しいポイントだ。
ただし、移住支援制度の多くはメイン拠点として居住することが条件に含まれている。多拠点生活の拠点でも認められるかを確認し、制度を上手に活用しよう。
多拠点生活のデメリット
多拠点生活はメリットが注目される一方で、デメリットにも気を付けなければならない。4つのデメリットを理解し、多拠点生活の再検討や準備を進めよう。
- 拠点を整える家財代や家賃がかかる
- 拠点間を移動するコストが発生する
- 仕事によっては多拠点生活との相性が悪い
- 急なトラブルに対応しにくい
拠点を整える家財代や家賃がかかる
多拠点生活でもっとも注意が必要なのは、複数の拠点を構えるためのコストだ。拠点で快適に暮らすための家財を揃えたり、拠点を維持するために家賃を支払ったりすると、数十万の出費が見込まれる。
複数の住居を使用できるサブスクリプションサービス、住宅レンタルサービスなどを使えばコストを抑えられるが、ひとつの拠点で生活する場合に比べるとコストはかさみやすい。
拠点間を移動するコストが発生する
多拠点生活は環境を変えながら暮らせるのが醍醐味だが、拠点間を移動するコストは気になるポイントだ。
拠点同士の距離にもよるが、電車や飛行機などを利用するなら、往復分の交通費が発生する。頻繁に移動するとその分だけ交通費が増えるため、移動費には注意が必要だ。
移動コストを抑えるには、ある程度まとまった期間拠点に滞在するとよいだろう。数ヶ月単位で移動するスタイルであれば、旅行感覚の出費で収支を管理できるようになる。
仕事によっては多拠点生活との相性が悪い
柔軟な多拠点生活を実現するためには、リモートワーク・テレワークで対応できる仕事が基本になる。出社が必須だったり、店舗勤務が必要だったりする場合は、多拠点生活をするためには出社形態の相談や転職などが必要になるだろう。
またリモートワークへの切り替えによって、収入が不安定になる恐れにも注意が必要だ。リモートワークは労働時間で評価するのが難しく、成果で評価する場合も多いため、成果次第では収入が減少してしまう。
多拠点生活をスタートするために、フリーランスとして独立・起業する方法もあるが、安定した収入を得るのは簡単ではない。拠点の維持費や移動費などコストが多くかかる分、仕事や収入については十分に検討する必要がある。
急なトラブルに対応しにくい
多拠点生活では好きな拠点で暮らせるが、滞在している場所によっては不測の事態に対応できない場合がある。
たとえば、東京で急遽打ち合わせしなければならないときに地方にいた場合、参加が難しくなるだろう。他にも、地元の友人から食事に誘われたり、家族が体調を崩したりしたときなども、即座に対応するのは難しい。
急なスケジュールやトラブルに対応するためには、スケジュール管理や周りの人との情報共有が大切だ。その地域にいつまでいるかをあらかじめ決め、周囲の人や家族などに伝えておけば、スムーズな対応をしやすくなる。
多拠点生活を成功させる5つのポイント
多拠点生活は魅力的な生活スタイルだが、コストや移動などのデメリットを対策しないと、思うような生活ができないリスクが高い。
多拠点生活を成功させるためには、以下で解説する5つのポイントを実践しよう。
- 収支管理を徹底する
- キャリアプランを慎重に考える
- スケジュール管理に気をつける
- 条件に合ったエリア・自治体を選ぶ
- 地域の人々やコミュニティと積極的にかかわる
収支管理を徹底する
多拠点生活は通常の生活スタイルよりもコストがかかりやすいため、収支管理が重要だ。
家賃や移動費はもちろん、食費や交際費などの管理を徹底したうえで、それぞれの拠点での生活やレジャーなどを楽しもう。
収支管理では、将来の暮らしについても考慮したい。結婚や育児、老後の生活などを見越して、貯蓄できるようにお金の管理をしよう。
キャリアプランを慎重に考える
多拠点生活を実現するためには、リモートワークが基本になるため、キャリアチェンジを考える必要がある。
出社するスタイルの人は、リモートワークへの切り替えやフリーランスとしての独立などが選択肢にあり、「どのように働きたいか」「将来どのような姿になりたいか」を慎重に考える時間が必要だ。
「働きながら全国の暮らしを楽しみたい」「ゆくゆくは気に入った場所で働きたい」など、多拠点生活で実現したいキャリアプランを具体的にイメージしよう。
スケジュール管理に気をつける
多拠点生活ではそれぞれの拠点にいない期間があり、時期によって生活する場所が異なるため、スケジュール管理に気をつけよう。
たとえば、週末に拠点に移動する予定があるときに、ゴミ出しや掃除ができていなかったり、直前に仕事の打ち合わせがあったりすると、予定通りに進まないだろう。いつまでその地域にいるか曖昧だと、周囲の人や家族などとの予定も立てにくくなる。
その拠点に滞在する期間や拠点を移動する日程などを大まかに決め、仕事や生活に支障が出ないようにしよう。
条件に合ったエリア・自治体を選ぶ
理想的な多拠点生活を送るためには、拠点を構える場所も重要だ。実現したい生活に合ったエリア・自治体を選び、その拠点で充実した生活を送ろう。
たとえば、休暇は自然の中で遊びたい人なら、自然の多い自治体を選ぶのがおすすめだ。好きな場所や趣味などでエリアを選んでも、充実した多拠点生活になるだろう。
地域の人々やコミュニティと積極的にかかわる
多拠点生活ではさまざまな人々と交流できるのが魅力だが、自らかかわる姿勢が欠かせない。
優しい人が声をかけてくれることもあるが、コミュニケーションを待っていてばかりでは交流が生まれにくいので、自分から積極的にかかわろう。
近所の人に挨拶したり、地域のイベントに参加したりするうちに、地域から受け入れられ、さらにコミュニケーションの輪が広がっていくはずだ。
多拠点生活におすすめの自治体
多拠点生活を実践するうえで、どこに拠点をつくるかは非常に重要だが、どの自治体を選ぼうか迷っている人も多いかもしれない。
そこで、多拠点生活におすすめの自治体を5つピックアップしたため、ぜひ拠点選びの参考にしてみよう。
- 熱海市|静岡県
- 鎌倉市|神奈川県
- 那須塩原市|栃木県
- 軽井沢町|長野県
- 糸島市|福岡県
熱海市|静岡県
出典:熱海市公式ウェブサイト
熱海市は、海・山・島をもつまちで、年中春のような過ごしやすい気候が魅力だ。季節ごとの自然を楽しんだり、熱海湾でマリンアクティビティを満喫したりするなど、自然を感じる暮らしを実現できる。
都心からのアクセスがよく、東京まで新幹線で約50分で移動可能。都心で働く人の拠点として便利で、通勤しながらの多拠点生活ができるだろう。
鎌倉市|神奈川県
出典:鎌倉市
観光地としても人気の鎌倉は、神社仏閣が多い風情ある街並みや豊かな自然風景が移住者にも評判だ。歴史や文化を感じたり、身近な海や山で過ごしたりしながら、充実したスローライフをかなえられる。
近い場所にある海では、新鮮な魚介類が漁獲され、海鮮料理やフレンチなどを振舞うお店が多くある。食にこだわりたい方にとって、美味しい魚介類を手に入れやすいのは大きな魅力だ。
那須塩原市|栃木県
出典:那須塩原市移住促進センター|那須塩原市
那須塩原市は那須高原や塩原温泉などの観光スポットが有名な自治体。標高の高いエリアであり、都心部と比べて平均気温が低く、過ごしやすい気候が魅力だ。
温泉やスキー場が多く、日々の疲れを温泉で癒したり、ウィンタースポーツを楽しんだりできる。
また、東京駅まで新幹線で1時間程度で移動できるため、通勤も可能だ。週に数回の出勤がある場合には、ちょうどよい拠点と言えるだろう。
軽井沢町|長野県
出典:長野県軽井沢町公式ホームページ
別荘地や避暑地としての印象が強い軽井沢町だが、多拠点生活の拠点としてもおすすめだ。
標高が高いため年中冷涼な気候で、暑さを避けて生活できる。自然豊かな景勝地や温泉、レジャー施設、飲食店などが充実しているため、快適な暮らしができるのも魅力的。
また軽井沢は移住者が多い町であり、先輩移住者とのネットワークをつくりやすい。はじめての多拠点生活でも、安心して暮らせる場所になるだろう。
糸島市|福岡県
出典:きっと満足|糸島生活
糸島市は、糸島富士と呼ばれる可也山や海岸線などがある自然豊かなまちだ。サイクリングロードや浜などが身近にあり、自然を感じながら暮らしを楽しめる。玄界灘の魚介類や内陸で栽培された野菜などの食材も豊富で、食事を楽しめるのも魅力だ。
糸島には紹介文化が根付いていて、気軽に人を紹介してくれる。フレンドリーな人が多いため、思わぬ出会いを期待できるので、積極的にコミュニティに参加してみよう。
多拠点生活に便利なサブスクサービス5選
多拠点生活が注目されたことで、気軽に複数の拠点を利用できるサブスクサービスが増えている。
今注目されているサブスクサービスは、以下の5つだ。それぞれのサービスの特徴を解説していく。
- ADDress
- HostelLife
- LivingAnywhere Commons
- バックパッカーズホーム
- SANU 2nd Home
ADDress
出典:ADDress
ADDressは、全国に数百箇所の生活拠点を利用できるサブスクサービスだ。初月4,800円(2泊滞在分)から利用でき、リーズナブルな価格が人気を集めている。
料金プランは1枚あたり1泊2泊分の宿泊ができるチケットを購入するシステム。余ったチケットは半年繰り越され、最大6ヶ月休会できるため、都合に合わせて柔軟に利用できる。
HostelLife
出典:HostelLife
HostelLifeは、月9,000円からのホステルパスを購入することで、全国の宿に宿泊したり住んだりできるサービスだ。
全国22都道府県31箇所に施設があり、初期費用無料・家具と家財不要で、最短1ヶ月から利用できる。事務所登記や住民票登録を無料ででき、事業者も利用しやすい。
LivingAnywhere Commons
出典:LivingAnywhere Commons
LivingAnywhere Commonsは、長期滞在に対応したワーケーション施設である。全国に拠点があり、各地の拠点を利用した多拠点生活を実現できるのが特徴だ。
各拠点にはワークスペースを完備し、仕事に取り組みやすい環境が整っている。インターネット回線やオフィスチェアなど、リモートワークに便利な設備が豊富だ。
バックパッカーズホーム
出典:バックパッカーズホーム
バックパッカーズホームは、東京や京都などに構えた拠点を利用できるサービスだ。ゲストハウスやホステルをメインに提供しているため、利用者との交流が生まれやすい。
サービス利用者が参加できるオンラインコミュニティに招待され、オンラインスクールやイベントなどでつながりが生まれるのも魅力だ。
SANU 2nd Home
出典:SANU 2nd Home
SANU 2nd Homeは、初期費用0円・月額55,000円で別荘をもつことができるサブスク。森や海、湖などの近くに物件があるため、自然の中で暮らしたい方にぴったりだ。
現在は、軽井沢を中心に11拠点があり、さらに拠点を広げる予定で、今後注目を集めるサブスクと言えるだろう。
多拠点生活をはじめてみよう
多拠点生活はひとつの生活拠点に縛られず、各地の拠点を移動しながら柔軟に暮らすスタイルだ。滞在する地域や人々とのつながりが生まれ、それぞれの場所で暮らしや体験を楽しめる。
多拠点生活を有意義なものにするためには、収支やスケジュールの管理を徹底し、拠点のある地域で積極的にコミュニケーションをとることが大切。
あなたに合った地域を選び、サブスクサービスなども活用しながら、多拠点生活をスタートさせてみよう。