かつて都が開かれていたことでも知られる奈良県は、数多くの神社仏閣や遺跡がある歴史深い土地だ。一度訪れたことのある人のなかには「奈良へ移住したい」と考える人も少なくないだろう。
しかし移住先として考える場合、生活する場として適しているのか気になるところだ。
この記事では、奈良移住のメリット・デメリットから移住におすすめの自治体の紹介、活用するべき移住支援やサポートまで解説していく。
移住する前に知っておきたい奈良県の基本情報
移住を成功させるためには、実行する前にその土地のことを理解しておくことが大切だ。まずは、奈良県の地理・人口・気候・産業など基本的な情報をチェックしていこう。
地理
奈良県は日本のほぼ中央、紀伊半島の真ん中に位置し、周辺を山岳に囲まれた内陸県だ。面積は、3,690.94km²と全国で40番目となっている。
奈良県は、吉野川に沿って南北に分けると、北部は盆地、南部は山地という特徴を持つ。
北部には奈良盆地を中心に、周囲を生駒山地、金剛山地、竜門山地、笠置山地といった標高1000m近い山々に囲まれ、盆地の中央には大和川が大阪平野へ向かって流れている。
南部は奥大和とも呼ばれ、紀伊山地が走る険しい山岳地帯となっており、北は吉野川を中心にまちが開け、東は台高山脈を隔てて三重県に、南西は和歌山県にそれぞれ接している。
人口
奈良県の人口は、令和4年11月1日時点で1,305,389人、世帯数は551,882世帯だ。
県内で最も人口が多いのは、県庁所在地のある奈良市で、総人口は、351,914人と、奈良県の人口の3割から4割を占めている。
気候
奈良県の平均気温は、約15.2度と気候はおおむね温暖だ。しかし、奈良県は北部の盆地と南部の山地で、大きく気候が異なる。
北部は内陸性気候の特徴を持つ地域が多く、おおむね雨の量は少なめだ。そして、夏は暑く冬は寒いのも特徴だ。特に大和高原のエリアでは、冬は厳しい寒さとなる。
南部の山岳部は、山岳性気候の特徴を持つ日本屈指の多雨地帯だ。夏は極めて雨量が多く、冬は厳しい冬山の様相となり積雪もかなり多い。
産業
奈良県は、電気製品や一般機械・金属製造業、靴下やニット製品などの繊維製品製造業や、木材・木製品製造業など、数多くの地場産業が集積する工業の盛んな地域だ。
出荷ベースで見てみると、平ゴムベルト、デジタル式複写機、靴下、タイツ、プラスチック製スリッパ、はし(木・竹製)などの出荷額が全国1位となっている。
参考:- 電子部品・デバイス、業務用機械等が盛んな奈良県 – |奈良県
奈良移住のメリット|移住先としての魅力は?
奈良県に移住するメリットは、大きく分けて以下の6つだ。
- ほど良く都会でほど良く田舎
- 大阪や京都へのアクセスが良い
- 歴史を感じる観光スポットが多い
- 観光地でありながら落ち着きがある
- 教育レベルが高く子育てに適した環境
- 独自の食文化が発展している
それぞれ詳しく解説していく。
ほど良くく都会でほど良く田舎
移住するエリアにもよるが、奈良の県庁所在地である奈良市は、大阪と京都からのアクセスも良く、JR奈良駅周辺には商業施設や飲食店などが多く立ち並んでいる。
奈良市は、まちの機能が集約されているため、徒歩や自転車での移動がしやすいのも魅力だ。
ほかの大都市と比べると都会過ぎずほど良く田舎でもあるため、「ある程度利便性を求めるけど、落ち着いた環境で暮らしたい」という人におすすめの移住先である。
大阪や京都へのアクセスが良い
前述したとおり、奈良は大阪や京都へのアクセスが良い。JR奈良駅から大阪駅までは快速で約50分、JR奈良駅から京都駅までは快速で約45分と1時間以内でアクセス可能だ。
近鉄奈良駅は大阪、京都、神戸三宮まで続く路線の始発駅であるため、座席を確保しやすいのも嬉しいポイント。
京都を経由すれば東京まで新幹線で約3時間、上野や新宿に向かう夜行バスも走っているため、関東圏への移動も比較的スムーズだ。
参考:奈良市へのアクセス(駅周辺・各エリア紹介)| ならりずむ。
歴史を感じる観光スポットが多い
奈良県には数多くの歴史的建造物があることでも知られている。
国内で初めて世界遺産に登録された「法隆寺」と「法起寺」を含む「法隆寺地域の仏教建造物」のほか、「古都奈良の文化財」「紀伊山地の霊場と参詣道」と、県内には3つもの世界遺産が存在する。
1998年に世界遺産に登録された「古都奈良の文化財」は、8つの資産で構成されており、大仏様が祀られる東大寺のほか、興福寺、春日大社、元興寺、薬師寺、唐招提寺は、敷地が史跡に指定。
平城宮跡と春日山原始林は、特別史跡・特別天然記念物に指定されている。
奈良市はまち全体が世界遺産となっているため、歴史好きな人にとって大変魅力的な移住先だ。
観光地でありながら落ち着きがある
奈良は観光地としても人気があるが、京都や鎌倉などと比べると混雑は少なくゆっくり街を散策できる。
観光地でありながら落ち着きがあるのも、奈良の魅力のひとつだ。「観光地を訪れるのが好きだが、人混みは苦手」という人でも、奈良であれば歴史を身近に感じながら落ち着きある生活を送れるだろう。
教育レベルが高く子育てに適した環境
奈良は教育レベルも高く、教育熱心な県としても知られている。
また、繁華街が少ないこともあり治安も良く、奈良市内には子育て支援センターや子どもの遊び場も多いため、子育てに適した環境だと言える。
独自の食文化が発展している
奈良は内陸県であるため、海産物などのタンパク源を確保するため保存食が発展してきた。
例えば、塩でしめたサバを酢飯と一緒に柿の葉で包んだ「柿の葉寿司」や、塩漬けしたサンマと米を漬け込み発酵させた「さんまのなれずし」などのほか、酒粕に漬け込んだ「奈良漬」など、さまざまな保存食が存在する。
また、お茶、うどん、まんじゅう、豆腐、清酒など日本の食生活に欠かせないものは、奈良がルーツの食材ともいわれている。
奈良移住のデメリット|失敗や後悔するのはなぜ?
どんなに魅力的な土地であっても、必ずデメリットも存在する。奈良県へ移住するデメリットは、以下の6つだ。
- 歩道や車道の幅が狭い
- 仕事の選択肢が少なく賃金が安い
- 冬の寒さが厳しい
- 車がないと不便
- 新鮮な海鮮が手に入りにくい
移住した後に後悔しないためにも、奈良移住のメリット・デメリットの両方を理解しておこう。
歩道や車道の幅が狭い
奈良は車社会だが、歩道や車道の道幅が狭く道は狭く入り組んでいるため、運転する際は細心の注意が必要だ。
また、奈良市は坂道が多いため、自転車での移動に苦労する人も多い。
仕事の選択肢が少なく賃金が安い
奈良に限らず地方へ移住する際は仕方のないことだが、奈良は都心部や大阪・京都などと比べると仕事の選択肢が少なく賃金は安い。
奈良の最低賃金は、令和4年10月1日時点で896円、大阪は1023円、京都は968円、東京は1072円となっている。
近隣の大阪と比べても100円以上の開きがあるため「どうせ働くなら大阪や京都」という人も多い。収入を下げたくない場合は、現在の仕事をリモートなどで継続することも検討しておこう。
冬の寒さが厳しい
奈良は住むエリアによって気候が異なるが、奈良市のある北部の盆地は内陸性気候の特徴を持つため、夏は暑く冬は厳しい寒さとなる。
南部の山岳部は標高が高く、雨の多い地域でもあるため、冬は積雪も多い。奈良へ移住する場合は、冬の寒さは覚悟しておこう。
車がないと不便
奈良市の駅周辺など、市内の中心部であれば電車やバスなどの交通機関も整っていて、まちの機能が集約されているため、車がなくても生活することは可能だ。
しかし、少し離れると電車やバスの便数も少なくなるため、車なしの生活は厳しくなる。奈良への移住を考える場合は、移住前に免許取得や車の取得準備をしておこう。
奈良移住で活用したいポータルサイト・支援制度
奈良移住を検討中であれば、ぜひ県や自治体が運営するポータルサイトや支援制度を活用してみよう。
奈良への移住を考えるとき、チェックしておきたいポータルサイトと支援制度は、以下の通りだ。
- Local Life in Nara Okuyamato
- 移住支援金制度
- お試し移住支援制度
- 空き家バンク
Local Life in Nara Okuyamato
出典:Local Life in Nara Okuyamato
Local Life in Nara Okuyamatoは、奈良県への移住・定住を応援するポータルサイト。県内の奥大和地域への移住を考えている人や、奥大和地域への移住を検討している人へ向けて情報を発信している。
サイトの中では、実際に奥大和地域に移住した人達へのインタビューをチェックしたり、動画で奥大和地域の魅力を知ることができる。
奥大和地域にある19の市町村が独自で行う支援施策も紹介しているので、奈良県への移住を検討中の方はぜひ活用してみてほしい。
移住支援金制度
奈良県では、東京23区(在住者または通勤者)から奈良県へ移住する人を対象に、単身者の場合60万円、2人以上の世帯の場合は1世帯につき100万円※の移住支援金を支給している。
※2023年度4月より1世帯につき最大100万円の支給に加え、18歳未満の子どもに対する支援金がひとりあたり最大30万円から100万円に加算される予定
移住支援金は、次の要件を全て満たした人が対象となる。
a 住民票を移す直前の10年間のうち、通算5年以上、東京23区内に在住又は東京圏(※1)に在住し、東京23区内への通勤(※2)をしていたこと。
b 住民票を移す直前に、連続して1年以上、東京23区内に在住又は東京圏に在住し、東京23区内への通勤をしていたこと。(※3)
ただし、東京圏のうちの条件不利地域以外の地域に在住しつつ、東京23区内の大学等へ通学し、東京23区内の企業等へ就職した者については、通学期間もa及びbにおける移住元としての対象期間とすることができます。(令和3年4月1日以降の転入者について適用)(※1)東京圏とは、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県のうち条件不利地域を除く地域をいいます。
引用元:奈良県移住・就業・起業支援事業(移住支援金)のご案内 | 奈良県
【条件不利地域】
・東京都:檜原村、奥多摩町、大島村、利島村、新島村、神津島村、三宅村、御蔵島村、八丈町、青ヶ島村、小笠原村
・埼玉県:秩父市、飯能市、本庄市、ときがわ町、横瀬町、皆野町、小鹿野町、東秩父村、神川町
・千葉県:館山市、旭市(令和3年4月1日以降)、勝浦市、鴨川市、富津市、いすみ市、南房総市、東庄町、長南町、大多喜町、御宿町、鋸南町
・神奈川県:山北町、真鶴町、清川村
(※2)雇用者としての通勤の場合にあっては、雇用保険の被保険者としての通勤に限ります。
(※3)東京23区内への通勤の期間については、住民票を移す3ヶ月前までを当該1年の起算点とすることができます。
上記以外にも細かな要件があるので、詳しくは県の公式サイトを確認しておこう。
お試し移住支援制度
移住した後に「こんなはずじゃなかった」とならないためにも、実際に住み始める前に移住希望先を訪れたり、数日でも実際に生活してみることをおすすめする。
奈良県内のいくつかの自治体では、移住をサポートするお試し移住制度を導入しているところも存在する。
制度を利用することで、安価に宿泊できる宿泊施設を利用し、まちの雰囲気や人々の様子など、観光で訪れただけでは気がつきにくい暮らしの感覚を確かめることが可能だ。
例えば、奈良市では宿泊施設の宿泊経費と交通費など一部の費用を最大2万円支給。五條市では、移住体験型住宅を連続7日以内に限り無料で提供している。
移住を希望する地域で、お試し移住支援制度を活用できないかチェックしておこう。
空き家バンク
空き家バンクとは、空き家を貸したい人と借りたい人のマッチングができるサービスのこと。
奈良県内で空き家を探したい場合は、空き家バンクを運営している自治体も多いので、検索してみよう。
例えば奈良市内の空き家を探したい場合は、奈良市空き家・町家バンクで検索することができる。
移住先に選びたい奈良の市町村(自治体)おすすめ8選!
最後に、移住支援やサポートが充実している奈良の市町村を厳選して紹介する。
具体的に住みたい地域が決まっていない場合は、お得な移住を実現できる以下の自治体を移住先の候補として感得てみよう。
奈良市(ならし)
出典:ならりずむ。
奈良市は、奈良県の県庁所在地であり奈良県最大の都市だ。奈良時代には都が開かれていたことから古都と呼ばれている。
市内には有名な寺院や芸術作品が数多く存在し、東大寺には「奈良の大仏」として知られる像高 15mの大仏が鎮座している。
奈良市は人口が増加傾向にあり、総務省の2021年の住民基本台帳人口移動報告によると、転入超過数は2021年に全国で17位、0〜14歳では関西4位となっている。
奈良市へ移住する人が増えている背景としては、豊かな自然や文化があるということに加えて、大阪や京都へのアクセスの良さ、生活利便性の高さなどが大きい。
また、全国に先駆けて市内の全小・中学校へのタブレット端末配布を完了するなど、教育環境の充実や子育て支援にも積極的だ。
生駒市(いこまし)
出典:生駒で暮らそう。オンライン移住相談窓口|生駒市
生駒市は、県の北西部に位置する生駒山地と矢田丘陵に囲まれた緑豊かな土地だ。大阪難波まで乗り換えなしで約20分、本町まで約25分と大阪へのアクセスが非常に良い。
大阪に隣接した環境でありながら、関西の人口10万人を超える都市の中で、生駒市は1,000人あたりの刑法犯認知件数と交通事故発生件数が最も少ない(令和2年度調べ)。
生駒市ではオンライン移住相談窓口を設けているので、市内への移住を検討している方はぜひ利用してみよう。
葛城市(かつらぎし)
出典:移住・定住・空き家|葛城市
葛城市は奈良県中西部に位置する市で、豊かな自然と歴史と文化が身近なまちだ。
大阪に隣接している立地であることから、車では葛城インターチェンジから大阪・松原ジャンクションまで約15分でアクセス可能。
また、近鉄南大阪線、近鉄御所線、JR和歌山線によって大阪・京都方面と結ばれるなど、田舎とは言え大阪・京都への移動がスムーズだ。
葛城市では、市内で新築住宅や中古住宅(建築後10年を経過していないもの)を取得した人を対象に、すむなら葛城市住宅取得事業補助金を支給している。
橿原市(かしはらし)
出典:橿原移住ガイド おいでよかしはら
橿原市は、奈良県のほぼ中央に位置しており、奈良市に次ぐ県下第2の都市である。
豊かな自然と橿原神宮や藤原宮跡、大和三山など歴史的な建造物やスポットが数多く存在しているのも特徴だ。
市内には大型ショッピングモールや百貨店、商店街があり、飲食店やスーパー、小売店が立ち並び、買い物環境も充実する生活利便性にも優れた土地だ。
橿原市では、既存木造住宅省エネルギー改修工事等補助事業、三世代ファミリー定住支援住宅取得補助、橿原市結婚新生活支援補助金など、移住で役立つ支援も充実している。
曽爾村(そにむら)
出典:曽爾村 ふつうに暮らす
曽爾村は、県の東部に位置する小さな村だ。
国の天然記念物に指定される鎧岳、兜岳、屏風岩や、室生赤目青山国定公園に指定される曽爾高原など、雄大な自然美に恵まれている。
また、みずみずしい夏トマトや寒熟ほうれん草など、高原地帯特有の気候を生かした農産物の生産も盛んだ。
曽爾村は移住定住に積極的で、住宅助成、お試し居住、空き家バンク、Uターン奨励金、転入奨励金など多くの支援やサポートを受けられる。
吉野町(よしのちょう)
出典:住んでよしのナビ
吉野町は、県のほぼ中央に位置する町で、春に見頃を迎える千本桜で知られる吉野山があることでも有名だ。
町の中心部を吉野川が流れ、町域の一部は国立公園や県立自然公園に指定されている。また「日本三大美林」といわれた吉野杉・桧の集散地としても発展し、全国に銘木吉野材を供給してきた。
吉野町では、定住促進空き家改修事業補助金や空き家流動化対策補助金、空き家バンクなど住まいに関する支援制度が充実している。
東吉野村(ひがしよしのむら)
出典:移住|東吉野村
東吉野村は県東部に位置しており、美しい清流が流れ四方を山に囲まれた自然豊かな村だ。
平成の名水百選に選ばれた七滝八壺、天然記念物に指定されている宝蔵寺のシダレザクラ、日帰り温泉など、観光スポットも多い。
空き家バンク、田舎暮らしエコ補助、定住促進空き家改修事業補助金など、住まいに関する支援のほか、子供の医療費無料や給食費の半額助成、修学旅行代の半額補助など、子育てに関する支援にも力を入れている。
三宅町(みやけちょう)
出典:まちづくり・施策|三宅町
三宅町は県の北西部に位置し、霊峰金剛や葛城の山並を望む自然環境に恵まれた町だ。
三宅古墳群、太子道、腰掛石など歴史と文化が香る土地で、万葉集の相聞歌では、「三宅の原」「三宅道」と詠われている。
三宅町は県内で最も面積の小さな町だが、30代の町長が在籍しまちづくりに積極的な点も大きな魅力だ。
定住支援としては、住宅取得支援、結婚新生活支援、移住・就業支援を実施。子ども医療費助成制度や、出産祝品贈呈事業、子ども家庭相談窓口の設置など、子育てに関する支援やサポートも充実している。
しっかり準備して奈良移住を実現しよう!
歴史が色濃く残り、自然環境に恵まれた奈良県は、大阪や京都へのアクセスも良く移住先としても人気が高い。
そのほかにも「ほど良く都会でほど良く田舎」「観光地でありながら落ち着きがある」「独自の食文化が発展している」など奈良移住にはさまざまな魅力がある。
しかし、「歩道や車道の幅が狭い」「車がないと不便」「冬の寒さが厳しい」といったウィークポイントがあることも理解しておかなくてはならない。
奈良に限らず、どんな魅力的な土地であっても、メリットとデメリットの両方が存在する。移住する際は、どちらも理解したうえで決断することが大切だ。
ぜひ、県や国、各自治体が提供している支援制度やサポートを活用しながら奈良移住に向けて準備を進めていこう。