山や森林に生い茂る樹木の一部を伐採して地表にまで日光を届くようにして、健全な森の機能を取り戻す作業を「間伐」と言います。この「間伐」を意味する英語である「THINNING」と名付けられたイベントが2024年7月24日(水)~30日(火)の一週間にわたり、福岡・博多阪急で開催されます。
今回は、「THINNING」の実行委員の一人である林 博之さんにお話を聞くことができました。
林さんは、千葉県我孫子市の出身。長らく東京でアウトドア系輸入商社の営業マンとして働いていたのですが、2012年に福岡県糸島市に家族で移住。
そんな林さんに、「THINNING」を開催することにしたきっかけや、移住先である糸島での仕事や暮らしぶりなどについて、たっぷり語ってもらいました。
イベントで楽しく「山や森を守る」必要性を発信
「THINNING」は林さんをはじめ、自然豊かな福岡県糸島市に住む木工作家やインテリアデザイナーたち6名が実行委員となり、2017年にスタートしました。
「東京で働いている時は、好きなアウトドア道具を販売していたので仕事は楽しかったのですが、仕事に一生懸命になるとなかなかプライベートな時間を作れずにいたので、1度きりの人生このスタイルでいいのかな?と疑問抱きながら仕事してたような気がします。
糸島に移り住んでからは、いい波がある日は朝起きて先にサーフィンをして、その後仕事に集中してリカバリーするといった生活を実現できています。
ただ、自分が満たされたからといってそこで終わるのではなく、この海も川も山もある糸島の魅力をきちんと維持できるための何かをアクションしたいなぁと思いましたし、そういう背中を自分の子供たちにも見せたいとも思ったんです」
感度の高い作家たちがつくる作品が並ぶマーケットやアートの展示などを楽しみながら、森林や間伐の現状についても自然と知ることができるというユニークな仕掛けが話題を呼んでいます。
「環境問題はなかなか重たい話ですので、例えば環境についてのトークショーを開いたとしても、人を集めるのは難しい。
環境が大事だということは分かっていても、そういう場に参加すると何かしなければならない責任が発生するように感じてしまうのかもしれません。
だから僕たちはもう少しカジュアルに、楽しく環境問題について話せる場をつくりたかったんです」
近年その恵まれた自然環境が注目されている糸島ですが、伐採の時期を迎えているはずの杉の木が放置され、水源としての山や森の機能などが失われつつあるそうです。
「このままだと、僕らの世代はギリギリ逃げ切れるかもしれませんが、子供たちの世代になると山や森がダメになってしまうかもしれない。そういう思いが、『THINNING』を始める原動力になりました」
博多阪急で開催するようになった理由
当初「THINNING」は糸島市を中心に開催されていましたが、今では九州の他県、時には九州の外にまで飛び出して、その活動の幅を広げています。
「『山や森を守る』という伝えたいことの根っこはぶれずにありつつ、それを伝えるための場として楽しいマーケットがあるというコンセプトを面白がってもらえたんじゃないかと思っています。
それに加え、「THINNING」の初期からスノーピークさんやザ・ノース・フェイスさんといった有名ブランドにも参加してもらえたのも大きいですね。
そうすると、木工作家さんや陶芸家さんたちにも興味を持ってもらえる。そこでコンセプトを伝えると『じゃあ儲け度外視でみんなで楽しくやれればいいね』って話に発展していって、最初から贅沢なメンバーが集まったんです。
するとそれぞれのファンの方たちが『自分の好きな作家さんが参加するイベントだから、間違いないだろう』と思ってくれて、『THINNING』自体に集客力がない時代からたくさんの人が訪れてくれたんです。
これが大きなミラクルを生んだ要素かもしれませんね」
博多阪急では2019年から「THINNING」を定期的に開催。百貨店を会場として開催するのは、博多阪急が唯一となります。
「博多阪急さん以外の多くの百貨店さんからもお声がけいただいていたんですが、『THINNING』の集客力を生かして、百貨店の他のフロアにも人を呼びたいという話にどうしてもなってしまうんです。
それだと僕らの掲げる理念とは異なりますので、心は動きませんでした」
そんな中、博多阪急が林さんたちの心を動かせたのはなぜでしょうか。
「良くも悪くも『熱意』を感じたからですね。とにかく、しつこかった(笑)。
当時、博多阪急の営業部長をされていた方と趣味のサーフィンを通じて知り合い、一緒に波を待ってサーフィンして、ご飯を食べて…というのが続いていたんです。
そんな中で『うちで開催してよ』と頼まれることが増えていったんです。
『いい加減諦めてくださいよ、百貨店さんからのオファーは全部断ってるんで』とずっと断っていたんですが、それでも何度も何度も頼まれました。あまりにもしつこいので、ある条件を出したんです」
通常百貨店の催事スペースがあるのは上層階ですが、林さんが出した条件とは「1階で開催させてくれないとやりたくない」というものでした。
「僕も東京でアウトドア用品の営業をしていた時に百貨店の担当をしていたので、そんな条件が通らないことは分かっていました。つまり、諦めてもらうために無理難題を突き付けたんです。
ところが、その営業部長さんは何と無理難題を社内で通して、クリアしてきた(笑)。そうなると、今度は僕らの方が断れませんよね」
そうしてスタートした博多阪急での「THINNING」開催。しかし、いざ始めてみると、思いも寄らない効果がありました。
「僕らも開かれた場所をつくる気持ちでイベントを行っていたんですが、こだわりを持つ人たちの集まりというイメージが強まっていたらしく、オシャレじゃないと行ってはいけないというムードもあったみたいです。
そんな中、博多駅の駅ビルにある博多阪急さんで開催してみると、明らかにこれまで来なかった人たちも訪れてくれている。仕事帰りの人がふらっと立ち寄ってくれるし、高い年齢層の人も来てくれるし、中には外国人もいる。
広く門戸を開いていたつもりでも、必ずしもみんなに届いていなかったことに改めて気づかされましたね」
そんな相乗効果もあって博多阪急と「THINNING」のタッグは以降も続き、今回で6回目の開催となります。
林さんが糸島に移住したきっかけとは?
立石山(福岡県糸島市)
林さんが2012年春に糸島に移住してから、12年余りが経ちます。糸島生活を満喫しているように見える林さんですが、移住を決めたきっかけはどんなことだったのでしょうか。
「移住を考え始めたきっかけは、2011年3月に起きた東日本大震災です。
それまでも、営業マンとしていろんな社長さんたちと話をする中で、自分もどこかのタイミングで独立したいという漠然とした思いがあったのですが、震災をきっかけに自分がやりたいことは早くトライした方がいいと考えるようになりました」
そこから実際に移住するまでには、1年の準備期間を要しました。
「長女の小学校の入学式に合わせたのが一番の理由です。それまでのコミュニティを全て捨てて縁もゆかりもない地に行くことになるので、僕はいいんですが、家族がどう順応できるかというのは大事でした」
数ある候補地の中から糸島を選んだ理由は、海が近い上に都心へのアクセスもよかったからだそうです。
「若い頃に国内中あちこちを旅していたんですが、いろんな日本の土地を見る中でいつかは北海道か九州、沖縄に住みたいという漠然とした夢があったんです。
そこで最初は海が近い宮崎県を候補として考えていました」
ところが、ネックになったのは仕事面でした。
「移住後は東京にある色んなブランドさんの九州エリアでの営業代行を仕事にしようと考えていて、何とか生活が成り立つだろうと思えるくらいの数の契約を結べるはずだったんですが、そこの社長さんたちから『宮崎で大丈夫?』と心配されてしまって。
やはりどなたも『福岡での商売をしっかりやってほしい』と考えている雰囲気でした。そうなると、宮崎に移住する訳にはいきません。
でも福岡市の中心部に住んで、また都市型の生活になるのもちょっと…と考えていたところにある人から紹介してもらったのが、糸島市でした」
家族全員で試しに一週間くらい滞在してみたところ、海も山も近く、さらには福岡市中心部までも30km以内とアクセスがいい糸島市が大のお気に入りに。
「こんな場所は他にない」と思い、あっという間に糸島への移住を決めることになりました。
移住先での暮らしの満足度は120%
人もモノも情報も溢れかえっている東京と比べて、福岡・九州には別の良さがあると林さんは感じています。
「東京には東京の良さがあるんですが、いろんな人がいすぎて、興味を持ってもその人に会える機会というのは滅多にありません。
ところが九州では、気になっていた作家さんと偶然鉢合わせして、少し話をしたら意気投合して『じゃあ飯でも行こう』という話になったりする。
東京は人が多すぎて、目立つためには相当ぶっ飛んだことをやってお金もかけてPRしないと、埋もれてしまいます。でも地方では、東京と比べて人が少ないからこそ、ちょっと面白いことをすれば目立つことができる。
そこは地方の良さじゃないかと感じています。『THINNING』も東京でやっていれば、ここまでの規模になっていなかったかもしれません。
一度トライして失敗したら二度と機会を得られないような東京で無理なチャレンジをするよりは、地方の安くていい環境でクオリティの高いことをする方が案外近道だってことが、今は多いように思いますね」
最後に、林さんに移住して良かったと感じているかどうかを聞きました。
「それは120%良かったと断言できます。僕が今頑張れているのは、糸島での暮らしが楽しすぎて、東京には帰りたくないという一心です。とにかく満員電車にはもう乗りたくないですね(笑)」
【催事のご案内】THINNING
- 日時:2024年7月24日(水)〜 7月30日(火)
- 営業時間:10:00~20:00 ※イベント最終日は18:00終了
- 会場:福岡・博多阪急1階メディアステージ
- 住所:福岡市博多区博多駅中央街1-1
博多阪急HPはこちら
https://www.hankyu-dept.co.jp/hakata/shopnews/detail/1243302_1813.html