日本の森林面積は国土の3分の2を占めており、森林を守り活用する林業は欠かせない仕事。担い手が不足しているなかで、林業の支援を実施している自治体も登場している。
この記事では、移住先で林業を始める魅力や注意点、支援が充実している自治体(市町村)まで詳しく解説していく。
林業ってどんな仕事?
移住とともに林業に携わりたい方は、まず林業とは何かを知る必要がある。漠然と「自然や木と触れ合える仕事」と理解しているだけでは、実際に従事したときにギャップを感じるだろう。
林業の主な仕事内容や1日のスケジュール、働き方・勤務場所を解説していく。
木・森を育てる
林業の大きな目的は、木を生産することであり、木は住宅や木製の商品、紙製品などさまざまなものに使われている。木を使うために、森林を育てるのが主な仕事だ。
木を育てるためには、ただ植えるのではなく、地ごしらえと呼ばれる整地から始める必要がある。
整地が完了した後は、苗木の植え付け、草刈り、木にからまったつるの除去、剪定、枝打ち、間引きなどを行い、立派な木に育てていく。
木を伐採・加工する
十分に成長した木は、住宅や木製品などに使用するために伐採される。大きな木を伐採するのは簡単ではなく、技術が求められるとともに、常に危険と隣合わせだ。
伐採に関わる作業ごとに名前があり、木を伐採する「主伐」、伐採した木を一ヶ所に集める「集材」、伐採した木を木材に加工する「造材」といった流れで、伐採・加工作業が行われる。
木を搬出・運搬する
伐採した木や加工した木材を運ぶ作業を「運材」と言い、集積所や市場などへ搬出・運搬する。
重機を使用しトラックに積み込むため、木を切る以外に、重機の操作や貨物車両の運転なども重要な仕事だ。
主な1日のスケジュール
例として、林業に携わる人の1日のスケジュールは、以下のように進められている。
- 8:00 作業場に集合
- 8:00~8:30 その日の作業のミーティング
- 8:30~12:00 現場作業
- 12:00~13:00 休憩・昼食
- 13:00~17:00 現場作業・撤収
朝、作業場に出勤し、作業内容をすり合わせたうえで、作業に着手していく。暗くなると作業ができないため、17時前後には作業を切り上げ、撤収するのが一般的な1日の流れだ。
主な働き方・勤務場所
林業の就職先は、民間の林業会社や森林組合、地域おこし協力隊などである。
移住先で仕事を探す場合は、民間の企業を林業関連で絞り込む、移住先の森林組合に相談するといった方法が良いだろう。
林業が盛んな自治体では、地域おこし協力隊として林業に携わることができる場合もある。
移住支援制度を確認したり、相談窓口を利用したりして、林業を始められるかリサーチしてみよう。
参考:林業とは|マイナビ農業
参考:林業という仕事|森林・林業学習館
移住先で林業に従事する魅力
移住先で林業に従事する魅力は、以下の4つだ。
- 自然に関わりながら働くことができる
- 地域の環境保全に貢献できる
- 林業に担い手を目指すことができる
- 仲間と協力して仕事に取り組める
自分が仕事に求めるポイントを想像しながら、メリットをチェックしていこう。
自然に関わりながら働くことができる
林業の仕事は、自然と直接関わることができる。緑に囲まれた環境の中で、動植物の営みを感じながら働けるのが魅力だ。
アウトドアが趣味の方であれば、山や森林に入るだけでもワクワクするだろう。
仕事は体力勝負な面もあるが、澄んだ空気や景色に癒されるはずだ。仕事を通して、木や果実などに詳しくなれるのもメリットと言える。
地域の環境保全に貢献できる
農林水産省によると、日本の森林面積は国土の約7割を占めている。地域に森林がある自治体も多く、地域の環境保全に貢献できるのも林業のやりがいだ。
森林は、さまざまな製品に使われているだけではなく、動植物が暮らす場所でもある。資源になる木を育て、動植物の環境を守ることは、林業に携わるうえで誇りに思えるだろう。
林業に担い手を目指すことができる
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが発表した「林業・木材産業の働き方をめぐる
現状の整理」によると、1985年には126,343人が林業に従事していたが、2015年には45,440人まで減少している。
女性比率は15%から6%に減少し、男女ともに林業の人手不足が深刻だ。これから林業に携わることで、担い手を目指すことができる。
自然がある限り必要な仕事であり、後世につなぐ役割を担えるだろう。
参考:林業・木材産業の働き方をめぐる現状の整理|三菱UFJリサーチ&コンサルティング
仲間と協力して仕事に取り組める
林業は、ひとりでは決してできない仕事だ。チームで整地したり、木を伐採したりするなど、仲間あっての仕事である。
会社や組合、地域の人々が協力し、林業が成り立っている。ひとりでもくもくと仕事をするよりも、仲間と助け合いながら働きたい人にぴったりだ。
移住先での暮らしは、人々とのつながりが大切になる。林業を通して多くの人と関わり、地域に貢献することは、移住先で暮らしていく助けにもなるだろう。
移住先で林業を始める際の注意点
林業には魅力がある反面、危険が伴うこと、体力が求められることなど、気をつけたいポイントがいくつかある。
どれも仕事を始める・続けるうえで重要なことであるため、注意点をしっかり理解しておこう。
常に危険があり気が抜けない
林業は、常に危険が近くにある仕事だ。大きな木を倒したり、重機を操縦したりする際に、事故が起きるリスクはゼロではない。
山や森林というフィールドで働くため、蜂やダニ、熊などにも注意する必要がある。周囲に気を配り、万が一の危険を自ら避けなければならない。
体力を求められる
林業は、体力を求められる仕事である。仕事場に行くまでに山の斜面を荷物を持ちながら移動したり、高い木に登ったりするなど、肉体労働の面が多い。
ただ最近では、機械化が進み、これまでに比べると負担は少なくなっている。とは言え、一定以上の体力は求められるので、体力自慢の方に向いているだろう。
他業種より待遇が良くない面がある
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの同調査によると、林業、木材産業の賃金上昇幅が全産業の平均よりも小さいという結果が出ている。
他の産業では、若手からピークになるまで賃金が上昇するが、林業では年齢や経験による上昇が少ないのが特徴だ。
また、2016年時点で、月給制が23%、日給制または出来高給が76%というデータもある。
月に決まった給料を得ている労働者はまだ少数派であり、安定した雇用という面で不安を感じるだろう。
参考:林業・木材産業の働き方をめぐる現状の整理|三菱UFJリサーチ&コンサルティング
技術の習得や資格が必要になる
林業では、危険を伴う専門的な仕事が多いため、技術や資格を求められる場合がある。
未経験で即戦力になるのは難しく、重機やチェーンソーなどの資格・免許が必要になることもあるため、すぐに従事できない可能性を覚えておこう。
林業に携わりたい方が学べる機会や場所は多くある。就業支援講習やトライアル雇用、林業学校などでは、仕事の内容や道具の使い方などを座学や実習で学ぶことができる。
林業に向いている人・向いていない人
林業に従事するうえで、向いているか向いていないかも重要な要素である。身体的な要素、価値観、林業への想いなどが関わってくる。
向いている人、向いていない人の特徴を参考に、自分自身と林業の相性を改めて考えてみよう。
向いている人
林業に向いているのは、以下のような人だ。
- 体力や身体能力に自信がある人
- 自分で考えて工夫できる人
- 安全第一に考えられる人
体力や身体能力に自信がある人
林業は、肉体労働の側面が大きいため、体力や身体能力に自信がある人におすすめだ。基礎体力があり、動くことを楽しめる人なら力仕事も難なくこなせるだろう。
デスクワークよりも身体を動かして働きたい、身一つでダイナミックな仕事をしたい人に向いている。
自分で考えて工夫できる人
林業は、力仕事でありながら、臨機応変な対応も求められる仕事だ。自然を相手にするため、そのときの状況に合わせて工夫できる人は、林業で活躍できるだろう。
考えることが好きな人、応用力がある人に向いている。
安全第一に考えられる人
いくらやりがいがある仕事でも、ケガをしてしまえば元も子もないため、安全第一の考え方が大切です。
もし木が倒れてきたら、重機が動かなくなってしまったらなど、常に危険を予想できる人との相性が良い。
向いていない人
以下に当てはまる人は、あまり林業に向いていない。自分に合っているかを改めて考えてみよう。
- 自然に興味があまりない人
- 身体を動かすのが苦手な人
- 収入を重視したい人
自然に興味があまりない人
林業は、山や森林で働くため、自然に興味がない人には向かないだろう。木や自然に触れる機会が多いので、自然との触れ合いを楽しめないと、長続きしない可能性が高い。
身体を動かすのが苦手な人
身体を動かすのが仕事の土台であるため、運動が苦手な人には難しいだろう。体力的にきつく、木の伐採や運搬などが上手くできないことも考えられる。
それでも林業に興味がある場合は、基礎体力はしっかりつけておきたい。
収入を重視したい人
調査結果を紹介したように、他の業種に比べると、収入面に課題がある。「身体がきついわりに待遇が悪い」といった現場の声もあるため、収入重視の人にはあまり向かない。
収入よりもやりがいや使命を大切に考える人は、誇りを持って取り組めるはずだ。
林業に関する移住支援を実施している自治体(市町村)4選!
林業に携わる人材を増やすために、移住支援を実施している自治体(市町村)がいくつかある。
移住に向けた支援を受けられるので、ぜひ活用したい。ここでは、4つの自治体の特徴と移住支援を紹介していく。
- 【北海道】芦別市(あしべつし)
- 【長野県】根羽村(ねばむら)
- 【静岡県】松崎町(まつざきちょう)
- 【高知県】佐川町(さかわちょう)
【北海道】芦別市(あしべつし)
出典:芦別市移住・定住情報|北海道芦別市
芦別市は、北海道の中央部に位置する市。「星の降る里・あしべつ」というキャッチフレーズがあり、環境省から星空の街に認定されている。
市域のうち、約88%を山林が占め、自然豊かな生活環境が魅力だ。自然だけではなく、ホテルや温泉、スポーツ施設など周辺施設も多く、充実した暮らしを楽しめる。
2022年には、林業就業体験として2泊3日で林業を見学・体験するプログラムを実施。移住定住に役立つ支援制度も多いため、ぜひ活用してみよう。
【長野県】根羽村(ねばむら)
出典:いまだかつてない森 / Never forest 根羽村
根羽村は、長野県の最西南端に位置する小さな村。自然に恵まれ、森や川に囲まれた環境で、新鮮な空気を吸いながら心地よく過ごすことができる。
SDGsに関する取り組みを推進し、森林組合の木育活動や山地酪農など、林業とも関わりが深い。
根羽村では、若者定住対策事業に力を入れている。定住祝金や就業祝金などを用意。各種支援を活用し、林業を通して根羽村の活動に貢献してみよう。
【静岡県】松崎町(まつざきちょう)
出典:理想の伊豆は松崎にある
松崎町は、伊豆半島の西海岸南部に位置している。西は駿河湾に面し海が近い立地だが、市域の約6割は山林が占めているのが特徴だ。
第一次産業の維持・保護に課題を感じているため、林業への従事は地域を助ける力になるだろう。
松崎町では、例年移住体験ツアーを実施している。「林業」をテーマにした年もあり、木工製作などを通して林業の魅力を伝えている。
住まいや結婚・子育て、医療・福祉などの支援も充実しているため、暮らしへのサポートも手厚い。
【高知県】佐川町(さかわちょう)
出典:移住・定住|佐川町
佐川町は、高知県の中西部に位置し、四国山地に囲まれた盆地だ。
新たな林業の形をつくろうと模索し、フリーランスで林業を営む「自伐型」のモデルに取り組んでいる。
既に自伐型林業家に森林を割り当てる仕組みがあり、森を育てながら暮らす方法が確立されつつあるのが特徴だ。
住まいや子育て、お試し移住などの移住支援に加えて、地域おこし協力隊も積極的に活動している。自伐型や地域おこし協力隊での林業への貢献を考えてみよう。
移住先で林業を仕事に暮らしをスタートしよう
林業は、森林を育てながら木を生産し、木の循環を助ける重要な仕事だ。森林は地域の自然環境でもあり、林業に従事することで地域の自然を守る役目も担うことができる。
自然に関わりながら働きたい人、地域の環境保全に貢献したい人などに、ぴったりの仕事だ。自治体によっては、林業に携わりたい方向けのイベントや支援を実施している。
自然や林業に興味がある方は、ぜひ移住とともに林業に従事する準備を始めよう。