「移住を機に起業も行い、新たな人生を歩みたい」そんな願いを抱えている方は多いだろう。移住後の地方起業を成功させるためには、入念な前準備が欠かせない。この記事で地方起業のメリット&デメリット、おすすめの業種、利用できるかもしれない補助金(支援制度)、成功例&体験談、困ったときに相談できる機関までチェックしておこう。
移住による地方起業のメリット
移住を成功させるためには、移住後の仕事を事前に確保しておくことが大切。どのような仕事が良いかと検討する中で、地方起業に憧れる方も多いだろう。
移住とともに地方起業を実現できたなら、まったく新しい人生を歩み出せる。とはいえ、当然ながら起業の成功には確かな計画を立てておくことが欠かせない。
まずは、地方起業に関する正しいイメージをつかむために、そのメリットから見ていこう。移住による地方起業のメリットには、以下の3点が挙げられる。
- ランニングコストや初期費用を抑えやすい
- 新たな市場を開拓できる
- 補助金や支援制度があることも
初期費用やランニングコストを抑えやすい
地方での起業により、特に大きな恩恵を受けられるのが金銭面だ。地方は都会と比べて物価が安く、起業に必要な初期費用やランニングコストを抑えられる。
たとえば、一軒家を借りて1階を店舗スペースとしたい場合。都心の一等地で開業するのであれば、家賃数十万円は下らないだろう。
しかし、地方ならその1/10程度の金額でも魅力的な物件を見つけられる。家賃が低ければ、敷金・礼金・各種初回保険料といった初期費用も安価に済む。
手元の資金が心許ない方でも挑戦しやすいのが、地方起業の魅力だ。やがて事業が軌道に乗り、人を雇うことになれば、地方特有の賃金の低さも追い風となる。
新たな市場を開拓できる
実店舗をはじめとするオフライン型ビジネスを目指す場合、新たな市場を開拓しやすいのも地方起業ならではのメリットだ。
地方には、都会では当たり前のサービスがまだ存在しないことも多い。たとえば、地域唯一のスマートフォン・携帯電話の修理店を開業すれば、「電話が壊れたらあのお店」と独占状態を作れるかもしれない。
もちろん、起業とはそう何もかもがイメージ通りに進むものではない。しかしそれでも、多数の競合がひしめく都会に新規出店を行うよりも、事業成功の可能性を高められるだろう。
補助金や支援制度があることも
移住者の地方起業ならではのメリットとなるのが、補助金や支援制度の存在だ。
地方創生が叫ばれる中で、近頃は多くの自治体が「起業を前提に地元へ移住をしてくれる方」向けに補助金を用意している。このような支援制度では、数十万円単位のサポートも珍しくない。
また、国による支援策として起業支援金という制度もあり、こちらは最大200万円もの補助金を受けられる。
各種支援制度を上手に活用することで、金銭的に有利な形で事業をスタートできる。
移住による地方起業のデメリット
物価の安さや市場開拓&独占の可能性など、地方起業には嬉しいメリットがある。
しかし一方で、以下の3つのデメリットについては注意しておこう。
- 都会よりも市場規模が限られている
- 人材の確保が難しい
- 最先端の知識や技術にも触れにくい
都会よりも市場規模が限られている
現実的に問題となりやすいのが、地方ならではの市場規模の小ささだ。
自分が目指す業種にもよるが、都会と比べて人の少ない地方は市場規模も相応に小さい傾向にある。どれほど優れたサービスを提供していても、そもそものニーズが少なければビジネスとしては継続できない。
特に、まだ移住先に存在しない分野で起業する際には、「需要がないから誰も挑戦しないのでは」と一度落ち着いて考えてみる必要がある。
人材の確保が難しい
地方ならではの人口の少なさは、人材の確保の難しさにも直結する。
都会であれば、求人広告の出し方や待遇面の改善など、自らの努力で人材の雇用を進められる。しかし地方の場合、必要な知見や経歴を持つ人材がそもそも存在しないこともある。
とりわけ問題となりやすいのが、美容師が必須である美容院のような、有資格者がいて初めて成り立つビジネスだ。可能であれば、移住&起業前に人材の確保は済ませておきたい。
最先端の知識や技術にも触れにくい
見落としがちなポイントだが、地方移住後は業界内の最先端の知識や技術に触れにくくなる点にも気を付けたい。
インターネットの発展により、現在はネットの繋がる地域であれば、どこからでも最新ニュースを集めやすくなった。それは事実だが、しかし地方への移住者は、どうしても都会で開催されるセミナーや講演会には参加しにくくなる。
このような会合での有識者との何気ない雑談から、業界の潮流を知ることはよくある話だ。
自分の目指す未来にもよるが、年に1度は都会に遠征するなど時代遅れとならないための対策が求められるだろう。
移住による地方起業でのおすすめ業種
では、メリット&デメリットを踏まえたうえで、移住による地方起業ではどのような業種がおすすめなのだろうか?
成功しやすい業種としては、ずばり以下の2種類が考えられる。
- IT・Web系
- 地方の特産品を活かせる仕事
もちろん、自分の憧れの仕事がある方はそれを選ぶのがベストだ。しかし、迷ってしまう場合には上記も参考にしてみてほしい。それぞれ詳しく見ていこう。
IT・Web系
移住による地方起業を成功させやすい、王道ともいうべき業種がIT・Web系だ。
プログラマーはもちろん、Webページの制作に関わる業種(例:ライター、デザイナー、ディレクター)なども含む幅広い仕事が該当する。
実店舗を構えずオンラインでビジネスを行うIT・Web系は、地方の市場規模の小ささが問題とならない。オンライン上で顧客を探し、打ち合わせから支払い完了までを完結できる。
高速なインターネット回線さえあれば、来客を期待しにくい本当の田舎に事務所を構えることも可能だ。結果、家賃や物価の安さといった地方ならではの恩恵を最大限に享受できる。
地方の特産品を活かせる仕事
地元の特産品を活かせる仕事も、移住を伴う地方起業ではおすすめだ。
移住からの地方起業を成功させるためには、地域の仲間として受け入れてもらうことが大前提だ。特にIターンを希望する場合は、「なぜ縁もないこの土地に来たのか」と不安を持たれたままでは起業も成功しづらい。
「地元の柑橘類を活かした、美味しいケーキ屋さんを開く」
「名産品である布から織り上げた衣服を、オンラインも含めて販売する」
上記のような地域の魅力を活かした商売を進めれば、地元の方との信頼関係も築きやすい。
やがては地域の方々と一緒になって事業を行うなど、新たなビジネス展開まで期待できるかもしれない。
移住による地方起業で対象となり得る補助金(支援制度)
続いて、移住による地方起業を目指す方が対象となり得る補助金(支援制度)を見ていこう。実際の支援内容は業種や地域によってさまざまだが、ここでは一例を紹介する。
国:移住支援金・起業支援金
国による補助金として挙げられるのが、移住支援金・起業支援金。厳密には国が地方公共団体の取り組みを支援する形式だが、実態としては国による施策だ。
移住支援金と起業支援金の概要は、それぞれ以下の通りだ。
【移住支援金と起業支援金の概要】
主な支援対象 | 金額 | |
---|---|---|
移住支援金 | 現在まで東京23区に一定期間在住または通勤しており、これから東京圏外(※一部例外除く)で起業や中小企業などへの就職をする方 | 世帯:100万円以内単身:60万円以内 ※実際の支給額は自治体が設定する金額 |
起業支援金 | 東京圏外(※一部例外除く)に移住し、新規に社会的事業に関する個人起業や法人設立などを行う方 | 起業などに必要な経費の1/2(最大200万円) |
移住支援金と起業支援金は、条件を満たしていれば両方を受け取ることができる。つまり、移住を伴う起業の希望者は、最大300万円もの支援を受けられる可能性がある。
支援金の交付までの流れや条件面の詳細は、以下の記事も参考にしてみてほしい。
地方自治体:各市町村独自の創業支援制度
近年は、各市町村が独自の創業支援制度を用意していることも多い。一例となるのが、静岡県伊豆の国市の創業等支援事業費補助金だ。
本補助金は、伊豆の国市内で起業(あるいは事業継承)をする方に対して、所定の経費の1/2(最大50万円)を補助する制度。
「(起業後の)実績報告までに市内に事業所を設置する」「(商工会主催の)研修を受講する」といった条件こそあるが、事務所の増改築費や広告宣伝費などの幅広い出費まで補助対象となるのが魅力だ。
このような地方自治体独自の支援と前述の国の施策を掛け合わせて、金銭的に有利な形での起業を目指してほしい。
なお、各地域の支援制度を調べる際には以下のページの検索システムが役に立つ。ただし情報が古いこともあるため、制度の利用前には必ず自治体担当者に連絡を取ってみよう。
日本政策金融公庫:新創業融資制度
もうひとつ、起業に役立つ支援制度として知っておきたいのが、日本政策金融公庫の新創業融資制度。補助金ではなく、創業支援を目的とした融資制度だ。
本制度の特徴は、無担保無保証人で最大3,000万円(※運転資金は1,500万円まで)の借り入れができること。原則的に、開業する個人にまでは借り入れの責任が及ばない(起業する会社の借り入れ扱い)。
審査申し込みにあたっては、適切な「創業計画書」の提出や、創業資金総額の1/10以上の自己資金を用意すること(※免除条件あり)などの条件がある。
しかしそれでも、お金の面から起業を諦めている方の心強い味方となってくれるだろう。各種条件面などの詳細は、以下のリンクより確認してみてほしい。
移住による地方起業の成功事例&体験談
ここでは実際に移住を伴う地方起業に挑戦し、成功した方の事例&体験談を紹介する。Uターン・Iターンの事例をそれぞれ見ていこう。
ユニークな洗濯代行会社の起業に成功「karuizawa wash deli」
軽井沢町にUターンをし、珍しい洗濯代行会社「karuizawa wash deli」を立ち上げて成功に導いたのが小林真也さん。
証券会社の営業として活躍し、2人の子どももいた小林さん。移住&起業に踏み切ったきっかけは、もともと起業に興味があったのに加えて、転勤ばかりで子どもに「地元」を作ってあげられていなかったからだそう。
小林さんは軽井沢には別荘が多く、またコロナ禍によりそこへ移住してくる方も増えていることに注目。
隙間産業として洗濯代行業を起業した結果、現在では9割以上のお客さんがリピーターからの紹介となるなど、地元で愛されるサービスを実現できている。
その地域ならではのニーズを上手に見つけた好事例だ。
山の上のパン&日用品のお店「わざわざ」
東京都から長野県にIターンし、山の上にこだわりのパン&日用品のお店「わざわざ」を開店されたのが、平田はる香さん。店舗名のわざわざとは「わざわざ足を運んでくれてありがとう」を意味しているそう。
平田さんは2009年2月に、ひとりでわざわざを開業。
当初の年商は約230万円であったものの、2017年には1億7,000万円を超え、社員も10名以上を雇うほどの一大事業に成長させている。
平田さんによれば、このような成功を収められた理由は大きく以下の3つ。
引用元:note 平田はる香「山の上のパン屋に人が集まるわけ」
- 時代に合わせてプラットフォームを変更してきた
- コンテンツの品質向上を常に目指してきた
- 1.2と同時に新しい会社組織を作っていった
いち早くSNSを使った集客を採り入れ、オンラインストアやイベント出店といった別の販売形態も模索し、何よりも商品の質を丁寧に追求する。そして、成長に合わせて自社の在り方を変えていく。
自身が起業に挑戦する際には、このような先駆者の思想も参考にすることで成功を掴みやすくなるはずだ。
移住による地方起業の相談ができる機関
最後に、移住による地方起業について相談できる機関を見ていこう。起業は人生の一大事。専門家の力も頼りにしながら、着実に計画を立ててほしい。
日本政策金融公庫
前述の新創業融資制度で紹介した日本政策金融公庫は、起業相談を受け付けてくれる団体でもある。
日本政策金融公庫はフリーダイヤル(0120-154-505)での電話相談により、創業に関する情報やアドバイスを提供してくれる。利用にあたって条件はなく、専門の相談員が些細な疑問まで相談に乗ってくれる。
対面での相談を希望する場合は、東京・名古屋・大阪に位置する「ビジネスサポートプラザ」か、全国に152支店ある「創業サポートデスク」が利用できる。
また嬉しいポイントとして、公式ページ上では「○○の創業ポイント集(例:学習塾の創業ポイント集)」や「創業計画書記入例」などの初心者に役立つ情報も多数公開中だ。
既に気になる業種がある方は、ぜひ一度チェックしてみてほしい。
中小企業支援センター・商工会議所
全国500箇所以上に存在する商工会議所や中小企業支援センターでも、創業に関する相談ができる。一見すると企業向けのようにも見えるが、実際には個人による利用も可能だ。
中小企業支援センター・商工会議所での相談では、どのような事業を展開したいのか、現時点での計画とともに伝えることで専門的なアドバイスを受けられる。
法律や税務なども含めた、多角的な視点から意見を与えてくれるのがポイントだ。盲点を指摘してもらうことで、質の高い計画にブラッシュアップしていけるだろう。
また、一部の補助金は商工会議所への相談(ひいてはセミナーへの参加など)により取得可能性を高められることがある。開業資金にまつわる悩みを抱えているときにもおすすめだ。
移住予定先の自治体担当者
そのほか、移住の実行前には予定先の自治体担当者との創業相談も欠かさないようにしたい。
移住先の町の規模にもよるが、自治体担当者との相談なしでの起業成功は困難だ。その町の慣習を知らない状況では、地元の方との信頼関係を築くことは難しい。
また、自治体担当者との相談により、ホームページ上では掲載されていない(情報が古く更新されていない)最新の起業支援情報を教えてもらえることもある。
意中の移住エリアが決まった後は、ぜひ自治体に連絡を取ってみてほしい。
まずは地方創生総合サイトから確認してみよう
出典:起業支援金・移住支援金|地方創生
この記事では移住からの地方起業について、メリット&デメリットやおすすめの業種、対象となり得る補助金や支援制度、成功事例&体験談、移住相談ができる機関まで紹介した。
地方での起業は、金銭面の有利さや市場を独占できる可能性などの大きなメリットを秘めている。しかし一方で、市場規模の小ささや人材確保の難しさといった地方ならではの課題もある。
まずは、以下の地方創生総合サイトから起業支援金や移住支援金の詳細をチェックしてみよう。起業へのモチベーションが上がった後は、日本政策金融公庫などのプロに起業相談をしてみるのがおすすめだ。