移住に際して心配になることのひとつに、仕事がある。現在の仕事を辞めて転職を考えていれば、なおさら今後の生活に大きな違いを生む。
地方移住と転職をスムーズに行うためには、メリット・デメリットや注意点を把握しておくことが大切だ。
また、就業・起業に対しての手厚いサポートや、魅力的な地域おこし協力隊の募集を行っている自治体についても確認しておこう。
転職移住は3種類に大別される
まずは、転職を伴う移住について簡単に解説する。
転職を伴う移住には、以下3つのケースが考えられる。
- Uターン
- Iターン
- Jターン
Uターン
Uターンは、大学進学などで一時的に他地域に移住していた人が、再び故郷(出身地)に戻ってくることを指す。
地元のコミュニティーが残っていることも多く、土地勘があるほか、その地域の気候や風習などに理解があるため、比較的ハードルの低い移住だ。
Iターン
Iターンは、地方出身者が別の地方に移住することを指す。Iターンの場合、基本的には住んだことのない地域への移住となるため、最もハードルは高くなる。
その分、新しい刺激が得られたり、本当に自分がしたかった職に就きやすくなったりといったメリットがある。
Jターン
Jターンは、地方出身者が一時的に他地域に移住し、その後故郷(出身地)近くの別の都市に移住することを指す。
具体例を挙げるとすると、兵庫県の東部、大阪府豊中市と隣接する伊丹市の出身者が、大学進学などで東京に出て、その後就職や転職で兵庫県神戸市に移住する場合などが該当する。
Jターンの場合、移住先の自治体に対する気候や風土への理解がある場合が多く、Uターンほどではないにしろ土地勘があるケースも少なくない。
UターンとIターンの中間程度のメリットがあると言えるだろう。
移住に合わせて転職するメリット・デメリット
移住に合わせて転職することには、次のようなメリット・デメリットが考えられる。
【メリット1】叶えたかった夢が実現できる
転職する場合でも、以前勤めていた企業での勤務内容と類似する職種や、特定の業種内で会社を渡り歩くケースは少なくない。
もちろん、その仕事が本当にやりたい仕事であれば問題ないが、「やってみたかったけれど諦めていた仕事」があるのなら、移住に際して転職するのは大きなメリットがある。
住環境の変化、地域社会におけるニーズの違いは、仕事にも大きく影響する。
また、地方都市への移住の場合、その地域でしか募集のないような名産品にかかわる仕事もある。
社会人は1日の1/3以上を仕事の時間としている。働き方を変えることは、人生を変えることにもつながるのである。
【メリット2】地域に求められている仕事ができる
地方都市では、その自治体と近隣地域内で大半の経済圏が完結しているケースがある。
すると、消費者と生産者の距離が非常に近くなり、自分のやっている仕事が地域社会の成立・活性化に寄与していることが実感できるだろう。
【メリット3】ワークライフバランスを整えられる
地方都市では、公共交通機関の運行や商店の営業時間が限られてくる。
そのため、業務量にかかわらず、ある程度早い時間で仕事を切り上げる必要性があり、強制的に残業量を抑えやすくなる。
また、アウトドアアクティビティへのアクセスの良さなどから、余暇時間を多く取るよう意識自体も変化させやすい。
結果として、ワークライフバランスの改善が期待できる。
【デメリット1】転職自体にハードルがある
地方社会では、そもそも人員募集自体が多くないというケースがある。
移住してから転職先を探すのではなく、移住計画の段階で就職、あるいは起業の目途を立てておく必要があるだろう。
地域とつながりの薄いIターン・Jターンの場合は特に、自治体があっせんしている企業説明会や就職支援策を利用するほか、起業を目指すなら地域の商工会議所とのつながりを持っておくことをおすすめする。
【デメリット2】手取りが下がることも
地方では大都市部に比べて最低賃金が低く設定されているケースも多いため、就職先によっては手取りが下がってしまうことも考えられる。
自分の求める生活水準を維持するために必要な所得額を、事前に確認しておく必要があるだろう。
移住時の転職で失敗しないために気をつけたい4つのこと
移住に伴って転職する際、以下のような点に留意したい。
前職と同じ職種を選ぶときは要注意
前職と同じ職種を選ぶのであれば、前勤務先と競合関係にないかについて、事前に確認しておくことをおすすめする。
地域が離れていても、親会社・子会社という関係で移住先の地域と前の勤務先がつながっている可能性がある。
前職で円満な退職ができていたとしても、退職後すぐに競合他社への転職は、基本的に嫌がられることが多い。
トラブルの原因になるかもしれないので、あらかじめそうした問題がないかはチェックしておくほうが無難だ。
地域おこし協力隊で就業するときは要項をしっかりチェック
地域おこし協力隊は、地域おこし協力隊員として地域を盛り上げるPR活動などを担う役割を持つ。
地域おこし協力隊は地方公務員という肩書となるため、一般的な移住転職に比べて待遇が良くなりやすい。
また、地域のPR活動を通してコミュニティー形成がしやすく、協力隊の仕事が終わった後もその地域で継続して起業しやすくなるメリットがある。
一方で、多くの自治体では地域おこし協力隊に年齢の上限を設けている。また、普通自動車運転免許が必須だったり、最短就業年数の規定があったりと、制約も多い。
必ず募集要項を確認したうえで、自分にとって問題がない内容であることを確認しておこう。
起業するときは地域のコミュニティーを最大限活用
地方都市に限らず、起業するときに独力ですべてを行おうとするのは、かなりの困難が伴う。
経営プランをより現実に即した形に落とし込むのは、プロである商工会議所職員などの手を借りるのが良いだろう。
また、地域の人々に向けてBtoCの業務を行うのであれば、顧客となる地域の人々に、自身が提供するサービスを受け入れてもらう必要がある。
その際に、経営者と顧客が顔見知りであるかどうかは、かなり大きな違いを生む。
地域コミュニティーの中に受け入れてもらえるような努力は、怠らないようにしよう。
慎重になりすぎるのも問題
一方で、上記に挙げたことを丁寧に考え続けていると、なかなか最初の一歩を踏み出せないことも…。ある程度の目途がついたら思い切って飛び込んでみるのも大切だ。
具体的に移住転職のサポートに力を入れている自治体を見ていこう。
就労サポートが充実している自治体おすすめ5選
まずは、就労サポートが充実している自治体を5つ紹介する。
秋田県にかほ市
出典:にかほーむ
秋田県にかほ市は秋田県の県央に属するが、県の中では南部に位置する自治体であり、すぐ南側は山形県である。
にかほ市は、東京圏からの移住者で、かつ秋田県の移住支援マッチングサイトを利用して就業した人などに対し、移住支援金が交付される。
秋田移住支援金マッチングサイトでは、にかほ市以外にも秋田県内の全自治体に関する募集が行われているので、にかほ市に限定する場合は、検索のチェックボックスから「にかほ市」を選んで絞り込みを行う。
また、にかほ市に居住を希望する人に対して、にかほ市から通勤可能な近隣地域の仕事に限定してあっせんが受けられるにかほJOBという無料職業紹介事業がある。
長野県伊那市(いなし)
出典:伊那に住む
長野県伊那市(いなし)は長野県南部に位置する自治体であり、東は山梨県、南は静岡県と接している。
伊那市では、東京圏からの移住者で、かつマッチングサイトに掲載されている上伊那圏域の勤務先に新規就労した場合、移住支援金が受け取れる。
また、新規創業の場合も同様に移住支援金が受け取れる。
指定となっているマッチングサイトである長野県移住支援金対象求人情報サイトでは、長野県を10地域に分けて検索が行える。
伊那市で移住支援金を受け取りたい場合は、地図から「上伊那」を選択して検索するのがおすすめだ。
また、30歳未満で奨学金返済義務が残っている場合、最大5年間で60万円の奨学金返済支援が受けられる。
兵庫県養父市(やぶし)
出典:やぶぐらし
兵庫県養父市(やぶし)は、兵庫県内の北部(但馬地方)に位置する自治体である。
養父市は、国家戦略特区として農業をしやすい環境が整備されている。農地取得の簡易化や6次産業化推進など農業の担い手を募集している。
就農者育成総合対策として年間150万円(最長3年間)交付、研修期間中の生活資金として年間180万円(最長3年間)交付など、かなり手厚い支援策がある。
就農後、50歳で独立することを目指していく計画となるが、農業に本気で取り組みたい人にはかなりおすすめの地域といえるだろう。
愛媛県大洲市(おおずし)
出典:大洲市移住定住支援サイト
愛媛県大洲市(おおずし)は、愛媛県西部に位置する自治体である。大洲市でも、就農に関する支援が受けやすい。
海・山・川に囲まれているという地理的条件から、水稲・野菜・果樹などの生産が盛んであり、これらの担い手を募集している。
公共職業安定所(ハローワーク)はもちろんのこと、ジョブカフェ愛workという愛媛県内の就業を支援してくれるセンター・サイトや、あのこの愛媛(大洲市)も活用して、就業を目指せる。
長崎県長崎市(ながさきし)
出典:ながさき人になろう
長崎県長崎市(ながさきし)は、県南西部に位置する自治体であり長崎県の県庁所在地である。
長崎市では、長崎市移住支援補助金があり、東京区部に在住・通勤している人を対象に、長崎市へ移住して就業する人を対象としている。
また、働く子育て世代の移住・定住を推進する長崎子育て世帯ウェルカム補助金(35万円)という制度もある。
就労支援策としては、ながさき移住ウェルカムプラザという無料職業紹介所が利用できるほか、UIJターン就活費用補助金、産業人材育成奨学金返済アシスト事業なども用意されている。
申請すれば、転職先を探すためのレンタカーを借りられる事業も行っている。
起業サポートが充実している自治体おすすめ5選
次に、起業のサポートが手厚い自治体を5つ紹介する。
岩手県久慈市(くじし)
出典:KUJIターン
岩手県久慈市(くじし)は、岩手県北東部に位置する自治体である。
市の中心部にある空き店舗を活用し、小売業・飲食店・サービス業などを新たに出店しようとする場合に補助金が受けられる。
具体的には、内装工事・外装工事・給排水設備工事など、出店にかかる対象経費の1/2を、上限額付きで補助してもらえる。
・出店の経験がない新規出店者:上限25万円
引用元:街なかへの出店を応援します!|久慈市
・出店経験者、もしくは特定創業支援事業による支援を受ける新規出店者:上限50万円
・市外から転入し、住宅を有する空き店舗に出店する新規出店者:上限100万円
また、事業経験のない人を対象とした支援制度としてチャレンジショップ事業がある。これは店舗借上料を1年間、上限月額3万円分の支援が受けられる。
富山県入善町(にゅうぜんまち)
出典:水の町 入善暮らし
富山県入善町(にゅうぜんまち)は、県の東部に位置する自治体である。
こちらも、町の中心区域・市街地区域において新規創業する人を対象として、入善町まちなか新店舗等立地応援事業補助金を受けられる。
対象事業は衣類雑貨等の小売業、飲食料品の小売業全般、(ナイトクラブ等を除く)飲食店全般、旅館・ホテルに限定される。
補助率と上限額は事業の種類によっても異なるが、補助率は1/2か1/3で、補助上限額は100~200万円である。
大阪府大東市(だいとうし)
出典:暮らすなら大都市よりも大東市
大阪府大東市(だいとうし)は、大阪市の東側に位置する自治体である。
大東市では、中小企業診断士や司法書士、社会保険労務士など、企業の際に相談したい専門家からのアドバイスを無料で受けられる大東ビジネス創造センターD-Bizを設置している。
伴走型支援により、起業希望者が創業にいたるまでのサポートを行ってもらえる。
また、大東市特定創業支援事業を受けることもできる。
これは、創業5年未満の個人事業主や新規起業者が会社(株式会社・合同会社・合名会社・合資会社)を設立する場合、登録免許税が半額に減免されるほか、日本政策金融公庫の自己資金要件を満たしていると判定され、貸付利率を引き下げてもらえるなど、さまざまなメリットが享受できる。
島根県雲南市(うんなんし)
出典:ほっこり雲南定住サイト
島根県雲南市(うんなんし)は、松江市と出雲市の南に位置する自治体である。雲南市の創業支援には、特定創業支援等事業による証明書の発行がある。
大東市のものと同様に、登録免許税が半額に減免され、日本政策金融公庫の貸付利率引き下げ対象として利用が可能になる。
また、小規模事業者持続化補助金の補助上限額が、通常の50万円から100万円に引き上げられる特例措置が受けられる。
沖縄県与那国町(よなぐにちょう)
出典:よなぐにの暮らし
沖縄県与那国町(よなぐにちょう)は沖縄県最西端の町であり、日本最西端となる与那国島全域が町域となっている。
与那国町への移住者の中には、商業・漁業・農業への新規就労が多く、育成プログラムを経て独立していく人も多い。
新規営農に関しては、沖縄県青年農業者等育成センター事業や農業後継者育成確保事業など、沖縄県の全県的な取り組みが活用できる。
起業に際しては、与那国町商工会の支援が得られる。
地域おこし協力隊の募集がある自治体おすすめ5選
最後に、地域おこし協力隊の募集がある自治体の中で、おすすめできる自治体を5つ紹介する。
北海道新得町(しんとくちょう)
出典:地域おこし協力隊を募集しています。|新得町
北海道新得町(しんとくちょう)は、北海道東部に位置する山間の自治体である。町内協力企業、もしくは団体での研修となり、町で借り上げた住宅への無償入居が可能である。
現在は、林業担い手推進員、しいたけ生産推進員、まちの焼酎推進員などの募集が行われている。
静岡県掛川市(かけがわし)
出典:掛川市に住みませんか?|掛川市
静岡県掛川市(かけがわし)は、静岡市と浜松市の間にある、県西部の自治体である。
掛川市における地域おこし協力隊員の募集は、
- 持続可能な自治会組織のデジタルを活用した運営支援事業
- SDGsのまちの推進事業
- 掛川市南部および海岸線地域の活性化事業
- 農業による賑わい創出事業
となっており、随時募集が掛けられている。
農業や漁業、既存の商業への参画が多い地域おこし協力隊の中では、少し変わった特色を持つ働き方が可能だ。
奈良県川上村(かわかみむら)
出典:かわかもん 川上村地域おこし協力隊|川上村
奈良県川上村(かわかみむら)は、三重県と接する県南東部に位置する自治体である。
川上村での地域おこし協力隊の募集は、
- 地域振興
- 観光振興
- 集落の活性化
- 村の総合PR・広報
- 既存施設の活性化
といった内容となっている。
自身で考えて地域活性化のためにできることを提案していくタイプの地域おこし協力隊員募集となるため、自分にできることを探して考えていくことができる人材が求められる。
また、事前に川上村地域おこし協力隊見学ツアーが実施されるため、それに参加してマッチングするかどうかをよく見極めることも重要だ。
岡山県津山市(つやまし)
出典:地域おこし協力隊活動【平成31年度以降】|津山市
岡山県津山市(つやまし)は、県北東部に位置する自治体である。例年は毎年4月に地域おこし協力隊の委嘱式が行われている。
募集内容は年によって異なるが、農業・林業・産業・観光など、地域を活性化させるためのアイディアが求められる。
宮崎県延岡市(のべおかし)
出典:おいでよノベオカ|魅力発信ポータルサイト
宮崎県延岡市(のべおかし)は、大分県と隣接している県北部に位置する自治体である。
延岡市では、ひむか遊パークうみウララエリアなど、観光産業課題解決に向けた地域おこし協力隊員を募集している。
特産品であるイセエビ・ひむか本サバなどのブランド海産物など、名産となるものは十分にあるため、こちらも魅力的な特産品をどのように集客につなげるか、アイディアが求められる。
地方移住と転職前に…住みたい地域の支援体制をチェックしよう
転職を伴う地方移住は、これまでの生活を一変させる大きなチャレンジだ。
大きな期待と希望を抱いて飛び込むことも重要だが、その前に、移住先自治体の支援体制はチェックしておくべきだろう。
複数候補地があるのであれば、より移住に際して得られる支援が大きい地域を選ぶのも一手だ。