日本では、漁業関係者の高齢化や人手不足や後継者不足が深刻化している。そんななか、今の暮らしを変えて移住先で漁師を目指そうかと考えている方もいるだろう。
この記事では、漁業未経験で漁師の後継者を募集している自治体と移住に関する支援制度を紹介する。
漁師の需要はあるのか?
日本では現在、漁師の担い手が減っていて問題になっている。後継ぎがいないことで廃業の危機を迎えている個人の漁師も多い。
そんな深刻な問題を解決するひとつの方法として、最近注目されているのが事業継承の一種である「継業」だ。
継業とは、身内ではなく第三者に事業を継いでもらう取り組みのこと。
これまでは、親族の間などで事業を引き継ぐことが一般的であった。しかし、後継者がいても相手が後継者になることを望まない場合もある。
そのため、家族・親族以外の人に事業を引き継ぎたいと考える人が増えてきている。
また、全国の自治体では漁師の後継者になりたい人と事業者をサポートする制度を設けるなどの対策を始めている。
漁師の後継者になるメリット
漁師の後継者になるには、以下のようなメリットが期待できる。
コストやリスクを抑えることができる
漁師の後継者になることで得られるメリットは、事業を始める際のコストやリスクを抑えることができることだ。
漁師の仕事をゼロから始めるとなると、船を揃えるなど高額な投資が必要になる。一方、継業によって事業を引き継ぐ後継者となれば、それらのコストが抑えられる。
これまで漁師の経験がない者にとっては、環境が整ったところで「自分に漁師が続けられるのか」体験できるのはメリットと言える。
さらに、収入が漁獲高により左右される仕事なので、多額な投資をしたものの収入が少なかったというようなリスクを抑えることができるのも安心材料なのではないか。
技術・スキルを習得することができる
未経験で漁師を希望する場合、漁師の仕事を覚えるために研修が必要になる。後継者を募集している漁師のところでは、早くから船に乗り込み師匠の仕事をそばで見ることができる。
師匠のそばで、実際の漁を近くで見て技術を学ぶことができるのはメリットと言えるだろう。
漁師の後継者になるデメリット
漁師の後継者になるメリットがある一方、デメリットがあることも知っておかなければならない。
事業者との相性による
漁師の後継者になるには既存の事業者との相性が大事だ。人と人との繋がりであるからこそ、仕事を通してお互いのことを認め合える関係になれなければ後継者になるのは難しい。
漁師の後継者になるためには、相性の良い事業者と出会えることが重要と言える。
移住先に馴染めるか
漁師を目指して移住を考えている場合、仕事が楽しいと思えても住環境やその土地に馴染めるかが問題になってくる。
移住先で自分が求めている暮らしができれば、やりがいを感じながら漁師の後継者になれるかもしれない。
漁師の後継者になるためのステップ
漁師の後継者になるためには、どのような手順を踏めば良いのだろうか。
漁師の仕事や移住先について調べる
漁師といっても、沿岸漁業や遠洋漁業など、さまざまなものがある。この漁業の種類によって、仕事内容や平均収入が異なるため、まずは情報収集が大切だ。
自分がどのような漁師になりたいかを決めたら、まずは情報収集をしっかりしておこう。
さらに、漁師になるために移住が必要な場合は、移住先の情報についても調べておく必要がある。
移住先で活用できる支援制度やサポートサービスは、どのようなものがあるかを確認しておこう。
漁業体験・セミナーに参加する
情報収集ができたら、漁業体験などに申し込んでみよう。実際に船に乗って漁師の体験ができるため、情報収集だけではイメージがわかない場合におすすめだ。
また、漁師の体験談を聞けるセミナーを開催している自治体もある。漁師の仕事内容や1日の流れが分かる良い機会だ。
漁師体験やセミナーは、自治体のホームページや漁師.jp(全国漁業就業者確保育成センター)のホームページを確認してほしい。
漁師の後継者を募集している自治体を探す
漁師の後継者になりたいなら、後継者を募集している自治体を探してみよう。
後継者がいない漁師はもちろん、国や自治体でもさまざまなメリットがあるため事業者と後継者を積極的に支援しているケースが多い。
漁業に携わる人が減っている現在、漁師になるために利用できる補助金などを設けている自治体もある。
漁業関連はもちろん、移住支援やサポートサービスについても探してみると良いだろう。
漁師の後継者を募集している自治体(市町)5選
実際に、漁師の後継者を募集している自治体を5つ紹介する。支援制度などについてもあわせて紹介するので参考にしてみてほしい。
【北海道】利尻町(りしりちょう)
出典:漁業後継者支援|利尻町
北海道の利尻町では、漁業者の高齢化により後継者不足が深刻な問題となっている。
そこで、利尻町では各関係機関で「利尻地域漁業就業者対策協議会」を立ち上げ、さまざまな支援や対策を行っている。
- 漁師道(2週間の漁業体験)
- 漁業就業フェア(後継者を募集している人と漁師に興味がある人を繋ぐ出会いの場)
- 新規漁業就業者確保・育成対策事業(2週間の研修を終え、漁師になる決意をした人が最長3年まで研修を受けることができる)
- 漁業後継者へ報奨金を贈呈
さらに、定住移住相談窓口ツギノバは、漁師を目指し利尻町へ移住を検討している人の相談を受け付け、さまざまサポートもしている。
【島根県】西ノ島町(にしのしまちょう)
出典:まき網漁業後継者確保対策事業 ~漁師になってみませんか~|西ノ島町
島根県の隠岐郡西ノ島町では、高齢化が進んでおり漁師の後継者不足問題が深刻化している。
そこで、町と漁協、西ノ島町漁業就業者確保対策委員会では西ノ島町で漁師になろう!というサイトを立ち上げて、漁業従事者を募集中だ。
サイトでは、漁師になるための方法や漁師の声などのさまざまな情報が掲載されているので、漁師の後継者を目指している方はぜひチェックしてほしい。
隠岐郡西ノ島町の支援制度は以下の通りだ。
- 西ノ島町沿岸自営漁業自立支援事業費補助金(沿岸自営漁業を始める際に、機材など必要なものを取得する経費の2/3を補助する沿岸漁業スタートアップ事業など)
- 西ノ島町新規漁業就業者研修事 業費補助金(漁師になりたい者に技術指導を行う既存の自営漁業者に対する補助金など)
隠岐郡西ノ島町では、漁師の後継者を目指す者だけでなく、漁師になりたい者を受け入れる漁業者のどちらにも補助金を設定している。
【和歌山県】串本町(くしもとちょう)
出典:串本町移住・交流推進協議会
和歌山県漁業就業者確保育成センターでは、漁師を目指す方への情報提供や支援制度の紹介を行っている。
ここでは、就業に関する相談にも応じてくれるので、心配なことなどがあったら活用してみると良いだろう。
また和歌山東漁業協同組合では、漁業に関するさまざまな情報を提供しながら、これからの和歌山県の漁業の担い手を募集している。
和歌山県では、以下の支援制度を設けて漁業の新規就業者の確保・育成を行っている。
- 新規就業支援制度(漁業の新規就業者に対し、就業までの支援を行う制度を設けている)
- 漁業体験・漁業研修(漁業への新規就業を促進するため、漁業研修制度において就業希望者がスムーズに就業できるようサポート。研修受講中の研修生は給付金または賃金を受給しながら研修が受けられる)
また、漁業体験のほかに短期研修・長期研修があるため、実際に漁師の仕事を体験できる。
さらに、串本町への移住を考えている方へは串本町移住・交流推進協議会が移住に関するさまざまなサポートを行っているのでチェックしてみてはどうだろう。
【三重県】尾鷲市(おわせし)
出典:尾鷲市漁業体験教室 参加者募集|尾鷲市
三重県尾鷲市では、市をあげて漁師の後継者の確保・育成に取り組んでいる。後継者対策の一つとして、最長3泊4日の漁業体験教室を開催。
尾鷲市での支援制度は、以下の通りだ。
- 尾鷲市漁業体験(おおむね40歳以下の方を対象にした定置網漁業体験)
- 漁業後継者確保支援整備 尾鷲市 事業補助金(漁業研修への研修支援費の支給)
- 漁師育成機関運営支援事業 補助金(市内の漁業組合に対し、漁業就業志望者のための活動資金の補助)
さらに、尾鷲市はおわせ暮らしというポータルサイトを立ち上げて移住希望者を支援している。
【鹿児島県】阿久根市(あくねしし)
出典:漁業後継者就業支援金|阿久根市
鹿児島県阿久根市にある阿久根漁港では、近海で獲れるイワシや味、きびなごなど多様な魚種が水揚げされる。
阿久根市が行っている支援は以下の通りだ。
- 漁業後継者就業支援金(漁業後継者の確保・育成のため、交付対象の漁業後継者に対し、1年につき150万円を交付する)
また、阿久根市への移住を検討している方へは、市が阿久根市空き家バンク制度など、さまざまな支援を行っている。
移住支援を上手に使って漁師を目指そう
日本の食卓を支える漁業に携わる仕事はやりがいを感じることだろう。未経験でも漁師の後継者になれる自治体は多くある。
漁師の後継者を目指している方は、後継者支援を行っている自治体を探してみるのがおすすめ。支援制度はさまざまな種類のものがあるため、比較してしっかり検討することが大切だ。
さらに、移住を考えている場合も同様に自治体の支援制度やサポートを利用すると良い。上手に移住支援制度を使って漁師の後継者を目指してみよう。