地方創生の施策として、地域活性化起業人(旧称:地域おこし企業人)という制度がある。都心部の企業に勤めている人材を地方自治体に派遣し、そこで起業、事業を通して地域の課題を解決するというプログラムである。
地域活性化起業人の制度について、より具体的に解説するとともに、求められる人物像や、必要なスキルについてまとめた。
地域活性化起業人とは
地域活性化起業人は、総務省が推進している制度だ。
企業が人材を地方自治体に派遣し、そこで事業を起こしたり改革を進めたりして地域の課題を解決することを目的としている。
三大都市圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏)に所在する企業から、それ以外の1,429地方自治体に対して派遣を行える。
派遣元企業には、年間最大560万円/人の人材派遣にかかる経費補助がなされる。
起業人を受け入れるための準備費用として、受け入れ自治体・企業には、年間最大100万円/団体(措置率50%)の支援が行われる。
また、起業人がおこした事業に対する経費として年間最大100万円/人(措置率50%)の支援がある。
なお、令和2年度までは『地域おこし企業人』という名称で行っていた事業から名称を変更したものであり、内容自体は同様のものである。
募集している自治体・職種
2023年9月1日時点では、70自治体・74人の募集がある。
地域は全国で幅広く、北は北海道の第二都市である旭川市(あさひかわし)、南は鹿児島県奄美大島に位置する宇検村(うけんそん)に募集がある。
職種では、観光をはじめとした地域産業振興に関するもの、地域の情報発信やDX推進などITを活用したものが多い。
また、各自治体に対して自由に提案する形式のものもある。
望まれる人物像・能力
地域活性化起業人には、次のような人物像・能力が求められる。
自分で課題を見つけて解決策を考えられる人
起業人は、自ら地域の課題を見つけ解決することが期待されている。
もちろん当初計画案などは、地域の商工会議所や役所と連携を取りながら策定していくことになるだろうが、実際に開始した後は、役所の指揮管理のもと、ある程度自走できる体制に移行していく必要がある。
自ら課題を率先して解決するために試行錯誤できる能力は必須だ。
長期的に地方移住・定住を考えている人
地域の課題解決は、一朝一夕で終わるものではない。
先ほど紹介した総務省からの支援金・補助金は最大3年間で停止されるが、そのあとも継続して事業を続けていくことが望まれるケースが多い。
派遣期間は半年から3年程度とされているが、地域活性化に寄与する事業であれば、起業人の派遣期間満了後も事業自体は継続して行われる必要があるだろう。
例えば役所内の業務改善を推進していた場合、同僚となる派遣先の同僚に業務内容を引き継いで出向元の企業に戻ることもできる。
一方、その地域に移住して、より長期にわたって問題解決に努めることも選択肢として取りうる。
コミュニケーション能力が高い人
地域の抱えている課題を解決するためには、時に抜本的な改革が必要になるケースがある。
しかし、地域社会ではその地域独自に育まれてきたコミュニティがあり、慣習が存在する場合が少なくない。
こうした慣習を無理やり変えようとすれば、地域住民と起業人の間に心理的な壁を作ってしまうかもしれない。
その結果、どれほど優れた事業計画・改善計画であったとしても、成功しなくなってしまう可能性がある。
地域の既存コミュニティとうまく共存することが重要だ。
地域住民と積極的にコミュニケーションを取りながら、課題解決に向けた行動を取れる能力が必要である。
自活能力
地方では、コンビニなどが少ない場合がある。
24時間営業の飲食店がなかったり、インスタント食品の品揃えが薄かったりといったことを考えると、最低限の自炊スキルはあったほうがいいだろう。
また、車がないと交通の足がない地域も少なくないため、普通自動車の運転ができるのも必須スキルといえる。
地域住民に助けてもらうことも多いが、まずは自分の力で生活できるだけの能力が要求される。
地域活性に対する熱意
何よりも重要なのが、その地域を活性化させるということへの情熱だ。派遣先地域にとっては地域の状況を改善するために派遣を依頼している。
「なんとなく面白そうだから」などの軽い理由で取り組みに参加することも悪くはない。
しかし、取り組みが始まったあとでは簡単にやめられないことだからこそ、熱意をもって参加したい。
地域活性化起業人として働きたいなら上司に相談を
地域活性化起業人になれるのは、三大都市圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏)に拠点のある企業で働いている人のみである。
地域活性化起業人として働きたいと考えているのであれば、まずは勤め先の企業に三大都市圏での事業拠点があるかを確認しよう。
もし事業拠点がない場合は、総務省の支援対象となる起業人として働くことはできないので注意が必要だ。
また地域活性起業人の制度では、企業が自治体と契約して、企業から派遣される形で自治体へと移住することとなる。
地域の課題に関する情報を集めたり、起業人として派遣されるために会社にプレゼンを行ったりといったこと自体は自身で可能である。
しかし、実際に起業人として派遣してもらうためには、企業が自治体と契約を結ぶ必要がある。
起業や課題解決に関する計画を詰めていくのも重要だが、まずは勤め先の上司に「地域活性化起業人という制度があり、それを利用して地方でやりたいことがあること」を説明し、納得してもらわなくてはならない。
ぜひ地域活性化起業人として手腕を振るい、各地域の課題解決に向けたチャレンジをしてみてほしい。