地方創生が声高に叫ばれるなか、近年は「移住」にまつわる支援の充実に取り組む自治体が増えている。
そのなかには“ひとり親”(シングルペアレント)のサポートを掲げる自治体も存在し、住まいや就労にまつわる支援、補助金の給付など、母子・父子家庭に嬉しい手助けを受けられることも。
今回はひとり親が安心して移住できる、補助制度の充実した自治体を見ていこう。
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ひとり親(母子・父子家庭)に移住をおすすめしたい3つの理由
「自然豊かな環境で、のびのびと子育てをしたい」
「ひとり親ならではの心細さや悩みを抱えている」
そんな方への解決策となり得るのが、田舎や地方都市への移住だ。
一昔前には、移住は老後の夢のように語られていた。しかし近ごろは、リモートワークの普及や地方創生の推進もあり、現役世代でも移住を実現する方が増えている。
自治体側でも若い世代の移住を率先して歓迎しており、今ではひとり親世帯に対して手厚いサポートを行っている地域も珍しくない。
移住は遠い夢物語ではなく、現実的に手の届く選択肢になりつつある。まずは、なぜひとり親に移住がおすすめなのか、その3つの理由から見ていこう。
金銭面で楽になるケースが多い
ひとり親の移住により、もっとも恩恵を実感しやすいのが金銭面だ。
田舎や地方都市の家賃は想像以上に安い。2LDKや3LDKといった広めな賃貸が、月額50,000円前後で借りられることも珍しくない。都会のワンルーム以下の値段で、広々とした家に子どもとゆったりと住めるのだ。
さらに、ひとり親支援の充実した自治体では「特定の年齢までの子どもと親の医療費無料」や「保育園無料」など、金銭面の支援も積極的に実施している。
固定費の削減と、都会ではかかるはずだった費用の補助。出費が減ることで、日々の生活を楽しむ余裕も生まれてくるだろう。
ひとり親として孤立しにくい
ひとり親ならではの孤立感を軽減できる点も、移住の魅力として挙げられる。
ひとり親として、仕事と子育てを両立するのは本当に大変だ。町内会などの地元の集まりにも参加しづらく、いつしか「自分と子どもが世間から孤立しているような…」と感じている方は多いだろう。
ドライな近所づきあいもあわさり、都会ではひとり親が寂しさや孤立感を抱えてしまいやすい。
一方、田舎や地方都市は都会よりも人間関係が密接だ。「隣人の顔さえ知らない」といった状況は滅多に起こらず、子どもとまとめて地域の仲間として受け入れてもらいやすい。
加えて、ひとり親に対して地域住民の理解が進んでいたり、同じ境遇同士で支え合えるひとり親コミュニティが充実していたりするケースも多い。
移住により、今はひとりで抱えているしかない不安感も大きく軽減できるだろう。
親子ともにのびのびと生活しやすい
親子ともにのびのびと生活しやすいのも、ひとり親の移住の大きなメリットだ。
川のせせらぎや鳥の声を耳にしながら自然のなかでゆったりと暮らせば、心もやすらぐもの。余裕が生まれ、都会の喧噪を浴びて暮らす今よりも、子どもと丁寧に向き合えるだろう。
今は毎日に負担を感じている方も、心機一転、前向きな気持ちで暮らしていけるはずだ。
まとめると、以下のいずれかに当てはまるひとり親であれば、移住により生活が好転する可能性は十分だ。
- 金銭面で生活が苦しく、毎月ギリギリで乗り切っている
- 周囲から孤立しているような、強い孤独感をおぼえている
- 日々のストレスから、ついつい子どもに強く当たってしまう
続いて、ひとり親が移住に失敗しないための注意点を見ていこう。
ひとり親移住の注意点|失敗しないために確認しておきたい3つのこと
ひとり親の移住では、以下の3点を事前に意識することが大切となる。
- 移住後の収入面について入念に検討する
- 学校・病院など施設の充実度や周囲環境をチェック
- 先行移住者の成功事例&インタビューも確認
それぞれ順番に見ていこう。
移住後の収入面について入念に検討する
最初に気をつけておきたいのが、移住後の収入面だ。
上述の通り、ひとり親の移住では、家賃が下がり支援制度を受けられるなど金銭面が楽になりやすい。しかしそれは、移住後にも安定して収入が得られるのが前提の話だ。
田舎や地方都市は都会に比べると賃金が低い。厚生労働省によれば、令和3年度の最低時給は、東京が「1,041円/時」であるのに対して、田舎では「820円/時」ほどに設定されている。
当然、求人数自体も田舎の方が少ない。新しい土地に住み、ひとりで子育てをしながら、満足できる仕事を探すのは大変だ。リモートワークで現在の仕事を継続するなど、移住後の安定した収入を確保したい。
なお、移住後の収入面に不安がある場合は、自治体の用意する就労支援(ひとり親用)を利用する手もある。
この点は、移住前に気になる自治体へ問い合わせてみると良いだろう。
学校・病院など施設の充実度や周囲環境をチェック
続いてチェックしておきたいのが、移住希望先の環境面。学校や病院などの施設の充実度まで含む、周囲の状況だ。
田舎や地方都市、特に田舎には、都会では当たり前の便利さが存在しない。電車やバスが日に数本しかなかったり、隣町へ行くのに山を迂回する必要があったり、さまざまだ。
「子どもの通学に無理はないか」「食料や日用品はどこで買えるのか」「いざというときの病院はあるのか」など、生活に欠かせない施設へのアクセスについて、子ども目線と親目線の両方から確認しておこう。
また、子どもがまだ小さい場合には、保育園への待機児童の有無も重要な問題となる。移住後に身動きがとれなくなってしまわないよう、園や自治体に相談しておけると安心だ。
先行移住者の成功事例&インタビューも確認
収入面と移住先の環境をチェックできたなら、すでに移住して実際に生活をしている先行移住者の成功事例やインタビューも確認しよう。
入念な準備は大切だが、それでも移住では住んでみて初めてわかることも存在する。
思いもよらぬ不便さに困ったり、反対に移住前は心配していたポイントが杞憂になったり。ポジティブ・ネガティブどちらの面にも、新たな気づきはありがちだ。
先行移住者の声をチェックすることで、自分と子どもが移住した後にどのような生活を送れるか、よりイメージを湧かせやすくなる。「移住」という漫然としたイメージを、現実的な「目標」に落とし込めるだろう。
また、近ごろは多くの自治体が移住にまつわる個別相談を受け付けている。「もし移住に成功されている方がいれば、その方の声を聞いてみたい」と相談してみるのもおすすめだ。
ひとり親(母子・父子家庭)の移住に優しい自治体10選!
それでは、いよいよひとり親の移住に優しい自治体を紹介する。地域の魅力と、ひとり親に嬉しい支援制度をまとめて見ていこう。
なお、今回ピックアップした自治体は、いずれもシングルマザーだけでなくシングルファザーにも助けとなる地域だ。父子家庭の方も安心して問い合わせてみて欲しい。
静岡県伊豆市
出典:ひとり親|いずぐらし
都会とのほどよい距離感から、移住先として人気なのが静岡県伊豆市。人口30,000人と小さめの都市ながら都会までのアクセスが良好で、例えば東京までは新幹線でおよそ1時間で移動できる。
子どもと穏やかな生活を送れるうえに、いざとなれば町にも出かけやすい温度感の良い地域だ。
伊豆市は“観光のまち”としても名高く、旅館業・医療業・介護業のいずれかで働くひとり親に対して、住居にまつわる金銭面のサポートを充実させている。
- 引越し費用補助(引越し業者などへの支払い上限10万円まで+敷金&礼金など上限15万円まで)
- 賃貸補助(月額20,000円を最大24ヶ月)
- 住宅補助(土地+物件の購入に上限100万円。住宅のみの購入で上限50万円。中学校就学前の子どもの同居ひとりにつき10万円プラス)
ひとり親サポート専門のコンシェルジュも用意されており、些細な不安まで解消しやすいのも魅力。移住を機に、心機一転新しい仕事まではじめてみてはいかがだろうか。
山梨県道志村
出典:子育て支援について|道志村
「人と自然が輝く水源の郷。住んでみたい村、住んで良かった村」を掲げる、山梨県道志村。人口総数1,581人(2022年4月1日時点)と非常に小さな村は、ひとり親がのんびりと子どもを育てられる穏やかな地域。
村の近くには清流「道志川」が流れており、紅葉などの四季折々の情景とあわせて、大自然とともにある暮らしを満喫できる。虫を捕まえたり花を採取したりと、田舎ならではの遊びに子どもも熱中できるはず。
道志村では、ひとり親家庭の医療費を所定条件下で肩代わりしてくれる補助制度が存在する。子どもはもちろん、そのひとり親の医療費までまとめて負担してくれる。
集団保育や学童保育も充実しており、どうしても仕事で忙しいときや、万が一病気で子どもの面倒が見られない場合にも安心。村全体の子どもとして、温かく受け入れてもらえるだろう。
島根県浜田市
出典:ひとり親家庭|浜田市子育て支援サイト
「海の見える地域で、子どもと穏やかに暮らしたい」そんな方には、島根県の西部にある日本海に面する街、浜田市がぴったりだ。
浜田市には県内最大の漁獲量を誇る浜田漁港があり、のどぐろに代表される新鮮な魚介類も満喫できる。休日には子どもと一緒に釣りへ出かけたりマリンスポーツを楽しんだり、なんていうのも幸せそうだ。
浜田市では母子家庭等自立支援給付金事業として、医療事務などの特定の教育訓練講座を受ける方に、経費の60%相当額(最大20万円)を支給してくれる。
さらに、看護師や保育士などの高度資格の取得を目指す方には、高等職業訓練促進給付金として月10万円ほどの生活費が支給される。ひとり親のキャリアアップを力強く支援してくれる自治体だ。
兵庫県神河町
出典:シングルマザー移住支援事業|かみかわくらす
兵庫県の真んなかに位置する神河町は、「ひとり親地方移住支援ネットワーク会議」に所属する、古くからひとり親の移住に積極的に取り組んできた自治体だ。
同じくネットワークに所属する上述の浜田市や伊豆市とも連携を取り、ひとり親が暮らしやすい町の実現に向けて、現在も工夫を続けている。
神河町は、神河町シングルマザー移住支援事業として、ひとり親に対して幅広い支援策を実施している。
- 医療費無料(高校卒業まで)
- 幼稚園&保育所保育料(所得による変動あり)
- 預かり保育&学童保育の実施
- 家賃補助(月額40,000円を超える場合に、最大20,000円まで補助)
- 神河町への引越し費用補助(最大50,000円。一部例外的に10万円)
各種悩み相談ができる、ひとり親専用窓口も設置済み。気になるポイントをまとめて尋ねてみてはいかがだろうか。
三重県鈴鹿市
出典:各種支援制度|鈴鹿市
経済的な理由により塾へ通わせられないなど、子どもに十分な学習環境を与えられないのは、ひとり親の大きな悩みのひとつ。日本のほぼ中央にある三重県鈴鹿市は、そんな悩みに切り込んだユニークな地方都市だ。
鈴鹿市では、ひとり親家庭等学習支援事業として、小4~中3までの子どもを対象に無料の学習支援サービスを行っている。週1ペースで参加できる、無料塾のようなイメージだ。
すでに塾や家庭教師を受けている生徒は受講できないため、勉強の苦手な子どもも楽しく参加しやすい。
加えて、一定の収入以下で母子(父子)の医療費が無料になったり、ファミリー・サポート・センター事業により育児支援をしてくれる有償ボランティアと繋がれたりと、ほかにもひとり親の過ごしやすい環境が揃っているエリアだ。
徳島県美馬市
出典:手当・助成|みまっこ子育て応援サイト
四国の東側に位置する徳島県美馬市は、日本一の清流ともいわれる穴吹川や、西日本で2番目に高い山「剣山」のある自然豊かな土地。川遊びもハイキングも楽しみやすく、子どもが活き活きと暮らせる町。
美馬市はひとり親に対して、18歳までの子どもとその親に対する医療費補助制度や、自立のために教育講座を受ける際の給付金制度(上限20万円。最大60%)で支援している。
また、自立の援助と児童の福祉のために、ひとり親へ低利子や無利子で資金を貸し付けてくれる母子父子寡婦福祉資金貸付もある。いざというときのセーフティーネットとして重宝するだろう。
岩手県盛岡市
出典:ひとり親家庭の支援|盛岡市
岩手県は、県を挙げて岩手県ひとり親家庭等自立促進計画を進めている、国内有数のひとり親に優しい地域。なかでも県庁所在地である盛岡市は、地方都市としての住みやすさと、支援制度の充実を両立している。
岩手県盛岡市で受けられる、主な支援策は以下の通り。
- 母子家庭等高等職業訓練促進給付金(資格習得支援。通常は月額10万円を最大48ヶ月)
- 母子家庭等自立支援教育訓練給付金(指定教育講座の受講を支援。費用の60%を支給)
- 母子・父子自立支援プログラム策定事業(無料で専門家に相談しながら、自立までのプランを策定できる)
- ひとり親家庭等医療費の給付(18歳未満の子どもがいるひとり親家庭が対象。所得に応じて医療費を一部補助)
また、子どもが「高等学校卒業程度認定試験」を目指す際に、関連講座の受講や本番試験の受験にまつわる費用を一部補助(最大15万円)してくれるなど、片親家庭がドロップアウトしにくい環境を作り上げている。
子どもと一緒にゆっくりと生活を立て直したいときにもぴったりだ。
愛知県蒲郡市
出典:ひとり親支援事業|蒲郡市
愛知県の南側、三河湾に面するのが蒲郡市。三谷温泉や蒲郡温泉が有名な、温泉地としても知られるのどかな土地。イチゴ狩りや潮干狩りなど、子どものワクワクできるレジャーも充実している。
ひとり親支援の面では、18歳未満の子どもとその親の医療費補助や「自立支援給付金」など、ほかの市町村と同種の制度を取り揃えている。
加えて、愛知県母子家庭等就業支援センター事業も実施中。キャリアカウンセラーとの相談や就職支援講習会への参加を通じて、ひとり親が安心して働ける町の実現を目指している。
石川県穴水町
出典:出典:穴水町シングルペアレント支援事業|穴水町
「なかなか移住までのイメージが湧かない…」「移住してみたい気持ちはあるが、どうにも踏ん切りがつかない」そんなときには、石川県能登半島の穴水町を訪れてみるのがおすすめだ。
穴水町では穴水町シングルペアレント支援事業として、お試しでインターン就職ができる仕組みを採用している。子どもと一緒に穴水町を訪れ、実際に宿泊しながら労働体験ができるユニークなシステムだ。
- 穴水町までの移動にまつわる交通費(最大10万円)
- 勤務中に子どもを認定園に預けるための保育費用(最大4,000円/日)
- 宿泊施設から事業所までの交通費(最大1,000円/日)
この体験では上記の費用を支給してくれるほか、1日5,000円の労働手当も出る(2日目より。1日の労働時間は6時間)。田舎暮らしがどのようなものか、まずは手軽に体験してみてはいかがだろう。
新潟県佐渡市
出典:ひとり親家庭応援ハンドブック
数ある移住先のなかでも、やはり「離島」は人気だ。今とはまったく異なる暮らしを望み、都会とはかけ離れた離島を探す方は少なくない。今回、ひとり親で離島暮らしを実現したい方におすすめなのが、新潟県佐渡市だ。
「佐渡島(さどがしま、さどしま)」は、日本海側で国内一の大きさを誇る離島。憧れの島暮らしを実現できる環境ながらも過疎過ぎず、島内に複数の学校や病院がある。
小さな離島では何かと困るひとり親も、子どもと一緒に安心して暮らせるだろう。
佐渡市ではひとり親家庭応援ハンドブックを配布しており、医療費助成や一部税金の減免、各種資金の貸付制度、一時保育など、ひとり親に嬉しい支援策が一覧で掲載されている。
令和元年からは幼児教育・保育の無償化も開始したなど、ひとり親を受け入れる島づくりを現在も推進中だ。まずはハンドブックの内容を確認し、気になる点を問い合わせてみてはいかがだろうか?
ひとり親向けの移住で子どもと向き合える暮らしを
ひとり親にとって、移住は人生を好転させる大きな転機となり得る。忙しさや金銭面にまつわるストレスが軽減されれば、今よりも子どもと向き合える暮らしを実現できるだろう。
「移住後の収入面」「施設の充実度」「先輩移住者の声」といったポイントを参考にするのが、移住先選びで失敗しないコツだ。まずは、紹介したおすすめ自治体のなかから、気になるものに問い合わせてみてはいかがだろうか。