手を加えながら暮らす楽しさ。それが古民家の魅力です

かつて地主が暮らしていたという古民家をセルフリノベーション。客間の広さは32 畳で、中央には鈴木さんが経営するアウトドアメーカー「SO9」の「こたつ」が置かれていた。ぜいたくな空間の使い方がうらやましい※鈴木さん提供写真

▼ 高知県香南市/自営業・鈴木助さん
取材・文/相澤良晃 写真/西村卓

香南市
人口3万3,307人 面積126.46km2
高知市の東、約20 ~ 30㎞に位置し、香南市の中心地から高知龍馬空港までは車で30 ~40分ほど。温暖な気候を生かし、ハウスを利用した野菜の早出し栽培に古くから取り組んできた。豊かな水と緑が魅力の地域。


「遊び」の価値観が変化

「ここは客間。32枚の畳を全部処分して、自分で板を張りました。けっこううまくできてるでしょ?」

まっさらな無垢のフローリングにさわりながら、鈴木助(たすく)さんは白い歯を見せた。開け放した縁側からは絶えず気持ちのいい風が入ってくる。そこから庭に下りると、集落が一望できた。裏山の桜が見ごろを迎えたら、ここに友人たちを招いてバーベキューをするのだという。東京から高知へ。高台の古民家で迎える2度目の春だ。

鈴木さんは東京生まれの東京育ち。高校卒業後、大学では工業デザインを学んだのち、2012年に建設機械メーカーに就職した。「日本各地にオフィスがあって、一年目から高知勤務になって。〝とんでもない田舎にきちゃったね?と、妻と車のなかで話したことを覚えています」

当初は田舎暮らしに馴染めず「まったく楽しくなかった」が、2年目を迎えたころ、「東京よりも断然、おもしろいと気づいた」という。「東京はすべての物事に値札が付けられている。お金がなければ楽しめない。でも、田舎は違う。登山、沢登り、キャンプ、ドライブ……自然を相手にすれば、誰にも邪魔されず、お金をかけずにおもいっきり遊ぶことができます。そのことに気づいてから、高知のことが大好きになりました」

その後は休日のほぼすべてをアウトドアに費やす。妻の理紗さんとともに県内のみならず四国中の山や川をめぐり、美しい自然をカメラに収めた。ブログを開設して、アウトドアの魅力を発信するようにもなった。しかし高知暮らし5年目に、東京へ転勤となる。

客間の縁側に座る鈴木さん。「せっかくなら東京ではできない暮らしをしようと思い、古民家を選びました」。現在、夜10 時に寝て、朝5~6時に起きる生活。妻の理紗さんとともに、東京にいたころよりも規則正しい生活ができているという
鈴木家の古民家は集落の高台にあり、春には裏山の桜が見事な花を咲かせる。「勝手に鈴木家の桜と呼んでいます」(笑)
※桜の写真は鈴木さん提供
土間をリノベーションしたダイニングキッチンは、靴を履いたまま入る形式。現代住宅ではなかなか見られない木枠の窓が趣深い

築100年の家で生活

「東京に異動してからも高知のアウトドア三昧の生活が忘れられませんでした。東京で同じように登山や沢登りを楽しもうとすると、どうしても2~3日は必要です。

しかも、遊んだ帰りに高速道路の渋滞に巻き込まれて、ストレスが溜まることもある。高知なら、山で遊んで温泉に入って、家でゆっくり夕食を食べるということが一日でできた。日に日に高知に戻りたいという思いが募り、移住を決意しました」

2018年4月から、本格的に移住の準備をスタート。そして、高知の友人や自治体に相談するなかで、高知市が「二段階移住」を推奨していることを知る。これは都会からの移住者がスムーズに田舎の生活に溶け込めるように、いったん都市部の高知市に移住し、その後じっくり時間をかけて最適な地域を見つけて再び移住してもらうというものだ。市は二段階移住の支援制度を用意しており、鈴木さんもそれを利用した。

「せっかく東京を離れるのだから、古民家で暮らしてみたいという気持ちがありました。でも、高知は高知市以外にほとんど不動産屋さんがありません。理想とする物件はすぐには見つからないと思い、高知市に住みながら時間をかけて自分で探すことに決めました」

2018年の11月に会社を辞めて、翌12月に高知市の土佐山地区に移住。その後、知人のツテを辿るなどして3か月で20軒ほどの物件を見て回り、ようやく冒頭の古民家と出会う。築100年以上。長いこと空き家だったため、あちこち傷んではいたが、梁や柱は立派でしっかりしていた。何より、空と山と水田を望むロケーションが一目で気に入った。

「家主さんにいずれ購入したいと伝えたところ、格安で貸してもらえることになりました。最低限、寝起きできるスペースを掃除して、2019年2月に入居。なるべくお金をかけないよう、セルフリノベーションを続けています」

まず、大変だったのは不要品の処分。来客者用の寝具が50組、それを収納していた箪笥が数十棹、傷んだ畳50枚などなど、「2トントラックで10杯分」を鈴木さん自ら処分した。壁や床の張り替えも自分で行い、これまでかかった費用は200万円ほど。「業者に頼んでいたら数倍はかかっていたと思う」と振り返る。

そうして完成した自慢の「客間」には地域の人が集まり、宴会が開かれることも多いという。いまや地域にすっかり溶け込み、今年から自治会の理事を務めている。
「集落は12世帯で、いちばん目立つ場所にある家だから、〝また灯りがともるようになってくれて良かった。村が明るくなった”とみんな喜んでくれています」

休日のたびに沢登りや登山を楽しむという鈴木さん。「誰にも縛られることなく、自由に自然のなかで遊ぶ楽しさを高知に来てから知りました」
鈴木さんがアウトドアに目覚めるきっかけとなった三嶺(みうね)は徳島県と高知県にまたがる標高1,893m の山※鈴木さん提供写真
「SO9」の製品は、普段は自宅併設の工房で製造しているが、現在改装中のため知人から借りた工房で製造している
作業はすべてひとりで行っている。細部までこだわり、ハンドメイドで丁寧に仕上げていくため量産はできない

理想の生活を求めて起業

「もちろん、高知で就職することも考えましたが、理想の生活を追求して、起業の道を選びました」

古民家に移り住んだ時期を同じくして、鈴木さんはアウトドアグッズメーカー「SO9」を立ち上げた。製造から発送、営業まで鈴木さんひとりで手がけている。現在、主力商品はふたつ。ひとつは組立&分解が簡単なうえ、上下に積み重ねられる「バンライフシェルフ」。アウトドアグッズを収納したまま車に積み込むことを想定している。

もうひとつは電源不要のアウトドア用「こたつ」。熱源に炭を用いるため、電源のない屋外をはじめ、テント内などでも使用できる。「こたつ」も「シェルフ」も高品質の合板を材料にしており、軽量かつ丈夫だ。

「気軽にアウトドアを楽しんでほしいという思いがあります。パッと車に積み込んで、気の向くまま出かけてもらいたい。キャンプや車中泊がグッと快適になります」
当然、鈴木さんもアウトドアライフを満喫している。会社員時代と違い、自由に休日をとれるようになった。好きなとき、好きな場所へと愛車のバンを走らせる。「家と仕事とアウトドア。ほぼ夢に描いていたとおりの生活を、手に入れることができました」

「バンライフシェルフ」(1 万2,800円)はアウトドアグッズを積み込んだまま簡単に運搬が可能。車に積み込めばすぐに出発できる。別売りの天板(9,800円)と組み合わせれば、テーブルとして利用できる点も魅力
八角形の天板の「アウトドア豆炭こたつ」(3 万9,800円~)は、10kg の軽量設計で折りたたむと厚さわずか6cm に。一人用の「ソロこたつ」も販売(天板・脚のセットで3 万2,800円)。
ともに燃焼器(1 万5,200円)別売り※商品価格はすべて税別、上3 点は鈴木さん提供写真

アウトドアグッズ開発・販売一問一答

Q.「SO9(エスオーナイン)」とはどんな意味?

A.青空を表す「蒼穹」という言葉をもじったものです。何かしら高知をイメージさせる名前にしようと思っていました。高い建物がない高知の空は広くて、とても気持ちがいいんです。

Q.どこで買えるの?

A.一部のセレクトショップで買えるほか、専用サイト(https://so9.official.ec/)のオンラインストアでも購入可能です。商品には私が撮影した四国の自然の写真を同封しています。

Q.今後はどんな商品が登場する?

A.バンの内装を10 分で木製の板張りにDIY できるキットを販売予定です。これを使えば、車中泊がすごく快適になります。キャンピングカーを購入するよりも断然、安くすみます。

Profile

鈴木助さん(30 歳)
■移住地:高知県香南市 ■移住経年数:1 年2 ヶ月
■移住前の職業:建設機械メーカーで営業やデザインを担当
■移住後の住居:高知市の一軒家(3 ヶ月)→ 2019 年2月から憧れの古民家 
■家族構成:妻 ■収入の変化:半分以下になったが、生活コストも下がったので、あまり変化を感じない
■地域住民との交流頻度:多い 
■支援制度の利用:高知市二段階移住支援事業費補助金
■準備期間:半年


こうち二段階移住支援制度とは

都会からいきなり田舎に移住するのではなく、比較的都市部の高知市に移住(ステップ1)して、そこを拠点に高知県内の最終定住地( ステップ2)を探すのが、こうち二段階移住支援制度。主な支援内容としては、
【サポート1】
・高知市でのお試し移住費用(賃貸物件の初期費用・引っ越し費用)を最大20 万円補助
【サポート2】
・県内市町村をめぐる際のレンタカー費用を最大2 万円補助などがある。いずれも事前申請が必要。安心して高知へ移住できるように県や県内市町村が連携してサポートしている。

問い合わせ先
高知市地域活性推進課移住・定住促進室
TEL 088-823-8813
https://www.city.kochi.kochi.jp/
deeps/01/010999/renkei-nidankaiiju/

※この記事は雑誌「複住スタイル」に掲載されたものを再編集したものです。記載されている内容は取材当時のもので現在とは異なる場合があります。