小さな村の魅力に惹かれて
和歌山県北山村をご存じであろうか。本州の真ん中に位置する紀伊半島の南部の地図をよく見ると、和歌山県でありながら、三重県と奈良県に囲まれた、村がまるごと飛び地となっている日本唯一の村だ。人口はわずか400人。信号もなく、人よりも猿の方が多いと村民が話すそんな“ポツンと村”に2022年5月、一人の女性が移住してきた。
「コロナの影響で訪日外国人観光客がメインだった前職の会社は大打撃を受けました。苦しい時こそ新しいことに挑戦すべきではないか、今までの経験を別の場所でさらに活かせないかと思っていた矢先、村の関係者からお声を掛けて頂きました。元々アウトドアが好きで吉野熊野国立公園内にある北山村のもつ大自然の豊かさや環境は私にとってはとても魅力的で、飛び込んでみようと思いました」
太田美穂さんは現在、道の駅おくとろの中にある観光センターで観光案内や観光いかだくだりの予約、受付の仕事をしているが、彼女のミッションはそれだけではない。村の未来の観光のために様々な企画を練り、受け入れ体制の構築やそのための調査を行っているとのことだ。
「この村にはここだけのものが3つあります。一つ目は”観光いかだくだり”、二つ目は話題の柑橘”じゃばら”の原産地、三つ目は全国唯一の飛び地となったユニークな歴史です。小さな村にまつわる魅力に惹かれた私のようなファンをつくる仕事をしたいと思っています。今はまだ言えませんが、大きな企画をいくつか考えていますので、北山村に注目しておいてください!」
1か月住んでみて見えてきたこと
400人の小さな村に住むことを考えると、色々と不便なことはありそうだが、毎日が充実しているそうだ。
「毎朝の出勤時に美しい山並みが川面に反射している景色を眺めながら少しドライブ、昼はお弁当を新緑の綺麗な広場でピクニックして、観光センターでの勤務を終えたら、星や月を眺めながら美肌の湯と呼ばれる”おくとろ温泉”に浸かって、帰宅します。自宅で料理をすることもありますが、晩御飯を食べに、素敵な古民家の居酒屋さんが自宅から往復の送迎をしてくれて、村民と一緒にお酒を交わして、楽しいひと時を過ごせています」
さらに、休日の過ごし方も聞いてみると
「美味しいコーヒーが飲めるカフェがあったり、知る人ぞ知るネイルサロンもある。不自由する事がない休日を村で過ごせているのと、何より大自然の中で時間がゆっくり流れている。心身が穏やかに健康になっていく実感がありますね」
今住んでいる家は築50年の平屋の1LDKの村営住宅を借りているが、綺麗にリフォームがされており、快適とのことだ。
「夜はとても静かで、よく裏山で鹿の鳴き声が響いています。ただ、村には素敵な古民家の平屋が空き家になっているところもあるみたいなので、今後、腰を据えることを考えて、いい空き家がないか狙っています」
過去の経験を生かしている今
そんな彼女、実は海外留学経験を持つ。中学を卒業した後、単身でニュージーランドの高校に3年間留学していたのだそうだ。
「今思えば若気の至りで早いうちに親元を離れて自由な世界を知りたいと思うミーハーな気持ちでした。当時は、英語も得意ではないまま、勢いだけで行ったので、身振り手振りを交えての必死なコミュニケーションをとって生活した経験はどこに行って暮らしても、柔軟に適応できる自信につながったのかなと思います。北山村での移住生活にも生かされていると思いますね」
帰国後、日本の大学に進学し、卒業後は大手旅行会社に勤務。約10年間、大阪や京都、鳥取などを異動しながら、各地の旅の魅力をお客様に伝えて送客する仕事に従事していたが、3年前に地元の和歌山県田辺市にUターン。送客ではなく、逆の誘客をする為の仕事に携わることとなった。
「地域振興に欠かせない地方の観光産業の重要さを痛感しました。どうしたら人が来てくれるようになるのか、どうしたら来てくれるだけではなく感動し、そしてまた来たいと思ってもらうのか。色んな方法や仕掛けのアイデアがあったとしても、どう実行していくのかという事を学びました。地域と一緒に受け入れ基盤を作ることこそ、持続的に成り立つ観光産業と地域振興になるということ、そして地域が新しい取り組みを受け入れて活用してもらえるようになるには、間に立つコーディネートが必要だと学びました。この村では、それを実践できるように取り組むつもりです」
村民に寄り添いながら魅力を伝えたい
村に来るきっかけで、今まで考えたことがなかった個人事業主として独立をする事になった太田さん。自由になった分、もっと勉強しないといけないと実感しているそう。
「村民から村の事を教えてもらうのがとても楽しいです。それを来てもらった人にこの村の魅力を伝える役割をして行きたいから、もっと北山村の事を知りたいので隅々まで教えてもらいたいです。ユニークな紀伊半島の中でも、さらにユニークでポテンシャルがとても高いこの唯一無二の村の良さを多くの人に知ってもらい実際に来て楽しんでもらえるような仕事をしていきたい。それをやるにも、村民の方が戸惑わないスピードでちょっとずつ一緒に時間をかけてやっていきたいです」
さらに、村に来たことで今まで以上に趣味を充実させたいそうで、
「仕事前の朝一番に、目の前の北山川でSUPやカヌーをひと漕ぎして大自然を感じて出勤したいです。そのためにも“マイ舟”を持ちたいと考えています。紀伊半島は奥が深いので北山村を拠点にした秘境の旅も楽しみたいですね」
村民の役に立つために、一つ一つ丁寧に学び、地域振興に生かし続けようとする後ろ姿はこれからの村がどんな形で変貌するのか楽しみだ。
「主役は村民です。私は影の存在ですから」
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